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- ヴァジム
- 取り敢えず放り込むだけ放り込んでおく民
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- 時系列:#1766 第一種接近遭遇 https://sw.2-d.jp/game/?mode=logs&log=20240917_0 後日談
- ファヴィオラ
- なんか適当に初めておくの民、時系列的には参入卓と昨日の卓の間なのだ。
- ファヴィオラ
-
- ■王都イルスファール商業街
- 建国期から軒を連ねる老舗の乾物問屋の店先で、一人の少女が手代の男と談笑している。
白を基調とした清潔感のある衣服に、ふんわりとしたストロベリーブロンドの長髪とマリンブルーの瞳、柔和な表情が目を惹く娘だ。
- 彼女の名はファヴィオラ、民間の漂流者支援団体[[〈光輝の環〉>https://sw.tale.blue/p/?user/0Tsumugi/BoL]]に所属している。
先日、ユスの森で発生した[[集落単位での漂着案件>https://sw.2-d.jp/game/?mode=logs&log=20240917_0]]に〈光輝の環〉の一員として関り、漂流民の支援活動にあたっている。
- 本格的な支援は国が行うことになるが、国と漂流民の仲立ちが主な役目だ。
- 現在、ウッズビー近隣の開拓村に一時的に身を寄せている漂流民(旧集落名:ハクナ村)は、温暖な沿岸部出身の漁民で、文化・風習も大きく異なっていた。
ファヴィオラは彼らの元を訪れ、王国の法律や慣習などの説明を行うと共に、彼らに馴染み深い海産物をこの乾物問屋で仕入れ、届けていた。
- これは単なる慈善行為ではなく、港湾都市ジョナスとパイプを持つこの商会と、漁業従事者だった漂流民の縁を繋ぐ根回しの一環でもある(と、彼女の上役にあたる女魔導師リアレイラは語っていた)。
-
- 「はい! ありがとうございます! この国の海を見たいと仰っていましたのでとても喜ばれる筈です!」
会話は良い方向に収まったのだろう。
娘は人当たりの良い――もっといえばお人好しそのもの――笑みを浮かべ、手代に何度も頭を下げて店を後にした。
「ええと、次は――」
次は〈星の標〉に向かい、同行者を募る予定がある。
森の中に転移してきた漁村は現在無人になっているが、家財の一部が残されており、その回収、建物としての保全、村と共に転移した来た海水の土壌への影響の調査などの仕事が残っていた。
漂流民の訪問はともかく、ユスの森内には騎獣が居たとしても単独で向かう訳にはいかない。
〈光輝の環〉の懐事情は決して余裕のあるものではないから護衛費用抑える必要がある。
頑張ろう、と意気込んで〈星の標〉のある区画の方に顔を向ける。
- ヴァジム
- 「やぁ、ファヴィオラ」
ちょうど顔を向けた先、気安く声を掛けながら近付いてくる一人の青年の姿があった。
若干のクセのある銀髪をウルフカットに整え、後ろに纏めている紫の目を持っている。
しかし纏っている剣呑な雰囲気は、気安い態度でも包み切れているかどうか。
その日、青年は暇を持て余していた。
先日に引き受けた依頼の報酬で武器を新調したのはいいものの、その調整のために時間が必要となってその状態で新しい依頼を受けようという気にもならず。
かと言って、その新調の為に有り金の多くを吐き出してしまった為に遊び歩くには懐具合が心もとない。
仕方無しに〈星の標〉で暇つぶしにコーヒーなどで時間潰しをしていたところ、「依頼も受けずに注文も禄にしないのならば出ていけ」と店主から文句を付けられてしまった。
少し、看板娘にちょっかいを掛けようとしただけだと言うのに、心が狭い事だと悪びれずに心のなかで毒づくこととなった。
そうして追い出されてしまったものは仕方ないと、それならばキルヒア神殿にでも行って本でも読もうかなどと考えながら、大した目的もなしにぶらぶらと商業街を歩いていた。
ぶらぶらと、アテもなく。緩やかな目的地こそあったが、別に行かずとも時間が潰せれば良いのだとばかりにうろついて。
だから、知った顔を思わぬ場所で見かけたことで自然とその足は止まる。
乾物屋、などは普段ならばとても用事のあるような場所ではない。視界に入れる事すらも殆どなかっただろう。
しかし、今日はたまたま暇つぶしも兼ねて周囲を見回していたことで目に入ってきた。
その軒先で店員と会話をしている女には、見覚えがあった。つい先日に、依頼を引き受けた際に協調することとなった〈光輝の輪〉とか言う慈善団体のメンバーで、底抜けに人の良さそうな――とても、自身とはウマが合いそうにない女だったと記憶している。
――だからこそ。
そんな相手だからこそ、暇つぶしにはちょうどよかろうとばかりに足先をそちらへ向けて、声を掛けようかという段階で相手が顔を上げたのが目に入り、冒頭の挨拶へと続いたのだった。
- ファヴィオラ
- 声をかけてきたのが顔見知りと気付くと「あ」と小さく声をあげ 、次いで零れるような笑みを浮かべて応える。
「こんにちは、ヴァジムさん」
彼はハクナ村の一件に同行した冒険者の一人で、今まさに探している人材だった。
村の場所や事情を知っているというのは何よりも大きいし、実力もこの目で見ているのでこれ以上の人選は無いくらいだ。
「先日のお仕事では本当にお世話になりました!」
再度の同行の申し出を切り出したい気持ちはあったが、まずは丁寧にお辞儀をして感謝の言葉を述べることにする。
- ヴァジム
- 向けられた笑みを見れば内心で、下手な男ならそれこそ勘違いでもしそうな反応だな、と笑い。
そんな内心は見せないような、別種の笑みを浮かべながら。
「随分と機嫌が良さそうだけれど、そんなにいい買い物ができたの?」
乾物屋の方に一瞬視線を向けつつ尋ねてみる。
間違っても冒険者なんかが訪れるような店には全く見えない。
どちらかと言うと、一般家庭が利用するような店だとは思うが、なにか目当てのものでもあったのだろうかと話を振って。
「いいよ、別に。仕事だったんだしね」
続いた礼の言葉には、やや面倒そうに答えを返した。
きっちりと依頼料は受け取っているというのもあり、青年の中ではすでに終わった話なのだ。
だというのに、事さらにそこで感謝を受けるというのも坐りが悪い。
- ファヴィオラ
- 「ええと、ハクナ村の皆さんにあのお店の干物をお届けしたんですが、とても喜ばれたので、そのお礼を述べに……」
以前の仕事に未だ関わっている事を告げるが、その表情からは面倒に思っている様子はなく、むしろ楽しそうに見える。
「皆さん、やっぱり魚介類にはとても興味を持ってくださって。沿岸部への移住も検討いただいているんです」
国が漂流民の希望をくみ取るとは限らないのだが、〈光輝の環〉はその折衝を行おうとしているようだ。苦労の割に合わない行いだ。
- ヴァジム
- 「干物……? ああ。海魚でも、干せば長持ちするってこと」
直前の言葉通り、件の村に関する依頼は、男の中ではすでに“終わった”仕事だった。
だから、その終わった仕事についてまだ動いているのだ、という発想が浮かんでいなかったのだろう。
なるほど、だから乾物屋かと少し遅れて理解する。
「ふぅん、大変だね」
大した感情も籠もっていない、感想とも言えない相槌を打つ。
無論、そこに掛かっている労力に想像が及ばないわけではない。
ただし、だからと言って好き好んでそんな事をしている相手に対して同情など覚える必要を感じてはいないだけで。
- ファヴィオラ
- 「やっぱり、元の環境との違いで色々と苦労されているようで……うまくいかないことも多いですが、早くこの国に馴染めるように手助けをしていきたいです」
苦労、うまくいかない、と口にした時はやや陰りを見せたものの、最終的には明るく前向きな表情で締め括った。
「大変は大変ですけれど、とてもやり甲斐のあるお仕事だと思っています!」
- ヴァジム
- 「まぁ、あんな格好してたくらいだし。もっと温暖……っていうより、熱帯みたいな場所だったんでしょ? そりゃ生活だって違うよね」
出会った村人たちの姿を思い出しながら、適当に相槌を打つ。
格好からしてただ単純に海の側というだけでなく、単純に年中を通して気温も高いだろう地域から来たことは想像に難くない。
「やりがい、ね。……まっ、頑張りなよ」
やりがいがあると語る女の顔を見れば、一欠片の虚構もなく、心底からそう思っているのだろうと予想がついて。
自分から話し掛けて時間潰しに使おうとしていたくせに、適当に話題を打ち切るように応援の言葉を投げた。
――こういう相手を見ていると、ついつい自分の中のよくない虫が騒いでしまいそうになったのだ。
- ファヴィオラ
- 「はい、ありがとうございます!」
娘は心にもない激励を額面通りに受け取って笑顔を浮かべた後、それを引っ込めてやや遠慮がちに尋ねる。
「ヴァジムさん、あの……不躾ですが、今、何か依頼を請けていらっしゃいます?」
- ヴァジム
- 「もしも受けていたとして、そうだったら僕がこんなところぶらついてると思う?」
依頼の野営時にわざわざ乾物を使って調理をするような、そんなに家庭的な人間に見えるのか、なんて冗談を交えながら周囲を見回してみせる。
乾物屋が店を構えているような通りなのだ。
冒険者が普段から買い物に来るような場所と言うよりは、むしろ一般人が普段の生活のために足を運ぶような店が多く軒を連ねているのを示して見せて。
- ファヴィオラ
- 「あ……ご、ごめんなさい、どうか気を悪くなさらないでください……実は、ハクナ村の様子を見に行くことになりまして……同行いただける方を探していたんです」
持ち出せなかった一部家財の回収や家屋の簡単な保全、転移後の環境への影響(現地生物の村への侵入状況や海水による塩害など)の調査といった細々とした仕事があるのだと説明した。
- ヴァジム
- 「そんなところまで面倒見てるんだ? それで僕にも、って?」
気を悪くするなと言われれば気にしてはいないと返しながら、細かい説明を聞けばそこまでしてるのかと、若干驚いた。
民間の団体だなんて言うからもっと適当に相手をしているものだと思っていたのだが。
その慈善団体は皆が皆、この娘のような連中の集まりなのだろうか、なんて益体もない考えをしていると同行者を探していると聞かされて、少し考えた後に。
「ふぅん。……まぁ、もう暫くはちゃんとした仕事を受けるつもりもなかったし、別に良いけど」
明確に話を持ちかけられた訳では無いが、話の流れからしてそれに着いてきて欲しい、ということなのだろうと。
どうせなら、切った張ったは新しい武器が手元に来てからが良い、と思っていたのは間違いない。
奉公と言ってしまえば趣味ではないが、転移してきた場所の植生何かには興味がないではない。
暇潰しを兼ねて当座の日銭も手に入るのなら、そこまで悪い話じゃあないだろうと。
- ファヴィオラ
- 「塩害が深刻なら近隣の開拓民の方の暮らしにも関わりますし、ハクナ村の皆さんにとっては大切な故郷ですから……」
気遣わしげな面持ちでそう語っていたが、前向きな返事を聞くと表情を輝かせる。
「ほ、本当ですか!? ヴァジムさん方であれば実力も確かで道もご存じですから、お手すきであれば是非にと思っていたんです!」
だが、すぐに勢いを失くして心底申し訳なさそうにその理由を明かす。
「でも、その……本当に報酬の方は……このくらいしかお出し出来なくて……」
提示した金額は、街道を行く商人の護衛と同程度――ユスの森のような場所に向かう護衛としては当然安すぎるもの――だった。
- ヴァジム
- 「謙遜とかじゃなくって、ほんっとに安いね。ま、目に見えた脅威がいるってわけでもなかったし、そんな依頼に大した報酬も期待してなかったから別にそこはいいよ」
はっ、と告げられた額に思わず失笑するものの、条件や懐事情を想像すれば安くなるというのも仕方がないか、と受け入れて。
代わりに、現地での植生確認の折に自分も確保なりの許可くらいは得ておこうか。
もはや相手の都合に合わせて、というより自分の時間潰しの小旅行のついで、くらいの感覚に近いか。
「で、いつから?」
- ファヴィオラ
- 「す、すみません……いえ、ありがとうございます!本当に、感謝いたします……」
報酬に関する忌憚のない意見には恐縮そうにしつつ、それでも引き受けてくれる事に感謝の意を示し、帽子をとって深々とお辞儀をした。
「えっと、ハクナ村の方々へのお届けものもあって、準備に多少お時間をいただくことに……明日の一番列車でウッズビーへ、それから――」
旅程については概ね前回と同じ、ハクナ村の住民が借り暮らしをしている最寄りの村に立ち寄って物資を受け渡し、それからハクナ村へ向かい、現地で数日滞在し調査や作業にあたるというもの。
- ヴァジム
- 「依頼、って言うには報酬が軽すぎるけど、別に仕事だしそんなにかしこまらなくていいよ」
礼儀正しく謝意を見せる様子には、そんな堅苦しさはいらない、と若干本気の鬱陶しさを見せながら返して。
でも、と思い出したように続ける。
「まぁ、依頼人だからってどこまでも付け上がれるよりはいいけどね。たまにいるでしょ、依頼主だからって何言っても良いって勘違いしてる奴」
言いつつ旅程を確認して、まあそんなもんだよね、と頷く。
- ファヴィオラ
- 「仕事だからこそ、きちんと感謝の言葉はお伝えするべきだと思っています……それに、どんな事を言われても、私は私なりの誠意をもってお相手するだけですから」
礼儀はいらないとばかりの青年に物怖じする事無く持論を述べる。仮に横柄な態度をとる相手であっても変わりは無いのだとも。
- ヴァジム
- 「……本当に、君みたいなのを善人って言うんだろうね。それ、心から本気で言ってるでしょ」
うわ、という表情を一瞬浮かべて。とても理解できないと、なにか苦いものでも噛んだように軽く顔を顰めながら感想を述べた。
- ファヴィオラ
- 善人と評されて、きょとんとした表情を浮かべる。
「そう、でしょうか……? 私、自分では結構我儘な方だって思っているんですが……」
- ヴァジム
- 「我儘。」
ファヴィオラの言葉を、オウム返しに口にして。
一拍、二拍置いた後。
「――ぷっ、はははっ」
間を空けてツボに入ったのか、噴き出してしまった。
- ファヴィオラ
- 「えっ」
相手が突然、笑い出した事に驚き、戸惑う。
「あ、あの、どうしたんですか? 私、何かおかしなことを……?」
- ヴァジム
- 「いや、君がそんな冗談を言うなんて思わなかったよ」
慌てふためく娘を前にとひとしきり笑って、落ち着けば息を整えて。
ふーっ、と大きく息を吸って、吐いて、落ち着きながら。
「君が我儘だ、なんて言ってたら世の中は誰もかも皆が我儘だよ」
くっくっ、と収まりきらない笑いの余韻を堪えながら。
僕を筆頭にね、なんて言ってみたりする。
- ファヴィオラ
- 「ち、違います、本当にそう思っているんですってば……だ、だって、人に何を言われても気にしないだなんて……そんなの自分勝手ってことじゃないですか」
冗談を言ったつもりではなかったので誤解をとこうと理由を説明する。
先程、青年が煩わしさを表していたのに、持論を告げたことを指している。
- ヴァジム
- 「ああ、うん。もう良いよ、わかったわかった。君は、我儘で自分勝手だ。そして、ジョークの才能もある」
そんなムキになる様子を見せられれば、参った、というように言い分を受け入れる様子を見せることとした。
これ以上に笑わされてはたまったものではない。
降参してみせて、これでいいかと相手の主張を認めつつ笑いを消化しながら。
自分のうちで、我儘や自分勝手と言うならもっと好き勝手にするものだ、それこそ本当に自分のようになどと考えつつ。
- ファヴィオラ
- 「両親や姉さんからも“ヴィオは頑固だ”って言われたこと、あるんですからね……」
腰に手を当て、なおも言い募る。
ムキになった姿は優等生めいた常日頃と比べて、やや幼さを感じさせる。
- ヴァジム
- 「ふ、ふははっ」
家族のことを引き合いに出してそうなのだ、と主張されれば、収めたはずの笑いがまた吹き出てしまいそうになる。
笑ってはいけない、とどうにか瞬間の沸騰のみで抑えたが。
- ファヴィオラ
- 「……家業も継がず、姉さんみたいに軍にも入らなかった私の身勝手を許してくれた家族にはとても感謝してます……だ、だから、今の仕事はちゃんとやり遂げて、自慢の家族だって思って貰えるようになりたいんです!」
家族を引き合いに出したことで、自分が今の道に進んだことも身勝手の一つなのだと説明する。
そんな説明は求められていないし必要も無いのだが。
- ヴァジム
- 「自分勝手だって言うなら、それこそね。家族の目なんて知るか、くらい言うものだよ、ファヴィオラ」
なおも言い募り、自らの身勝手さを主張しようとする少女の姿に、呆れ気味の声で言う。
そんなもの、気にしている時点で自分勝手さが足りていないだろうに。
- ファヴィオラ
- 「――そんなこと、言えません。自慢の家族なんですから」
表情を改め、キッパリと断言した。
- ヴァジム
- 「そりゃ、失礼」
ああいけないいけない、と。
そんな風にムキになって拒絶する様子を眺めながら、自分の内心を軽く宥める。
家族思いで、他人に優しく、どこまでも優しい世界で育ったのだろうということがよく分かる。
そんな娘に――なんて、つい考えてしまいそうになる。
「まぁ、いいや。取り敢えず明日の朝集合ってことでいいんだよね。普段の仕事に行くくらいの準備をしていけばいい?」
ある意味では残念だけれども、ある意味では良かった、とも思う。
明日から依頼なのだから、他の誰かの目があれば流石に自重しようという気持ちのほうが勝つというものだ。
- ファヴィオラ
- 「あ……、は、はい、そ、それでお願いします!」
話の流れが変わってホッとした様子で頷く。
同行者探しはもっと難航すると思っていたけれど、彼が引き受けてくれるなら安心だ。
これで後は出立前の準備だけに専念出来る。
- ヴァジム
- 「それじゃ、また明日――で、いいかな?」
確認事項は他にないだろうと、そう尋ねて。
運搬する物資の準備があると言っていたのは聞いていた。
きっと他の気が付く相手であれば、『手伝おうか』くらい言っていたのだろうが、眼の前の男にはそんなつもりはないらしい。
- ファヴィオラ
- 「はい、また明日!」
輝くような笑みを浮かべ、手を振って別れる。
翌日、駅で待っていたのは荷物を満載した騎獣を傍らにおいた娘一人だった。
「おはようございます、ヴァジムさん。今日からよろしくお願いします!」
- ヴァジム
- 「おはよう、早かったね。こっちも集合時間に遅れるつもりはなかったんだけど」
待ち合わせ場所にその姿を認めればそちらに歩みを進め、掛けられた挨拶に手を上げつつ答える。
その言葉に偽りはなく、列車の時刻にはもちろんのこと、事前に聞いていた集合時刻にもまだ時間があるくらいだ。
軽く周りを見回して、他の面子の姿がないのを認めれば。
「他の連中はまだなんだね」
元より時間より早く来ているのだから、もう少しくらい待つつもりでいたし構わないか、と頷いて。
ファヴィオラの側に寄れば自身の荷物を地面に下ろして、待ちの姿勢を見せ始める。
- ファヴィオラ
- 「それじゃあ、早速……他の……? ……あっ、あっ」
他の連中、と言われて怪訝そうな顔。
そして、何かに気付き、慌てた様子を見せる。
- ヴァジム
- 「?」
一体どうしたのか、とそんな様子を怪訝そうに眺めて。
- ファヴィオラ
- 「ご、ごめんなさい、お、お伝えしていませんでした!」
「あの、こ、今回はヴァジムさんだけでっ」
「……あ、も、もちろん、ネーヴェもちゃんと戦うことも出来る子なのでっ、あ、あなただけにご負担はおかけしません、から……っ」
半ばパニックになったように早口で釈明のらしきなものをする。
「えと……ほ、本当に予算が……すみません……同行いただけるって聞いて、私、舞い上がってしまって……説明不足でした……」
段々、トーンダウンして、しょんぼりと肩を落として、俯いて 、それでも一縷の望みをかけてからチラリと見上げる。
「……あ、あの……依頼……解消になさいますか……?」
- ヴァジム
- 畳みかける様子に、若干圧され気味になりながら。
「てっきり、他にも声を掛けるからあの金額だと思ってたんだけどなぁ」
困った、という様子を伺わせながら言葉を返す。
おどおどとした、解消されては困ると言わんばかりの態度をとりながらそうするか、と尋ねる様子を見ればまた、疼く。
本当に、困ってしまう。
「――それにしても。見掛けによらず大胆だね。男と二人きりでいい、なんて」
くすり、と笑って揶揄うように言ってやる。
本当に、口にした通りの意図でしかない。
若く見た目も良い女が、同年代の男とふたりきりなど不用心という他ないではないか、と。
- ファヴィオラ
- 「ね、ネーヴェも居ますから、二人きりってわけでもありませんし、こ、これで結構気が付く子なんです」
まだ慌てているのか、そんなズレた回答を返す。
ここで言う“気が付く”は道中のことでしかない。
竜と言葉を交わすことが出来ることもあって、娘にとっては三人居るという意識があった。
頼りの騎獣はといえば、荷物の重さが気になるのか羽をばたばたと小さく動かし、時折、鼻先を主に擦りつけ、クルルと唸ったり、青年に向けてシューと警戒するような音を立てて娘に窘められる始末だ。
- ヴァジム
- 「……あぁ、そう」
そんな反応に、すんと様子を落ち着かせて、少し考える様子を見せる。
警告は、してあげたのだ。
自分の風貌に自覚がないのか、それともそれだけ危機意識が低くなるほどに、周りからは甘やかされていたのか。
娘と違って、青年にしてみれば、獣の一匹を人数に換算などしていない。
精々が、自分にとっての武器の一本と同程度の付属品、といったところか。
「まぁ、良いよ。君がそれで良いなら、ね」
暫し悩んだ後に、ぱっと顔を上げれば。
そこにはもはや悩む様子はなく、むしろ愉しげな笑みを浮かべていた。
- ファヴィオラ
- 「ほ、本当ですか!? あぁ……良かった……ごめんなさい……本当に迂闊でした。以後、気を付けます……」
自分がどれほど迂闊な判断をしているのか思い至らす、心底安堵した様子だ。
- ヴァジム
- 「まぁ、別にいいよ、もう」
そう。
もう、いいんだと、そう告げて。
荷物を持ち直すと、ファヴィオラの側に近寄るとぽんっと軽く腰を叩いて歩き出しを促してやる。
「じゃ、行こうか。せっかく早く来たのに、列車に乗り遅れたら勿体ないでしょ」
- ファヴィオラ
- 落ち着くように促されたと思い、なんとか笑みを取り戻し、ありがとうございますと答えて列車に向かう。
大きな荷は貨物車両に預け、ネーヴェを彫像に変えた後、二人は三等客車にいた。
一等車と違って景観など望むべくも無い為、暇を潰す手段は会話くらいしかない。
自然とこの先の道中についての話題になった。
例えばこれから再会する事になるあの賑やかなハクナ村の住人について……。
「ヴァジムさんが来たらきっと大騒ぎになると思いますよ」 クスクスと笑って。
- ヴァジム
- 荷物の受け渡しは駅員に任せて手伝うこともせず、終われば車両へと移動していく。
景観が望めないにしても、騒々しい席というのは遠慮したい所だ。
揃って空いている、適当な席を見繕って確保していく。
「ま、あのときの面子で一番来そうにない人間だろうしね」
騒ぎになる、と言われれば小さく肩を竦めながら答える。
自分でも、普段であれば絶対にこんな話には乗らなかっただろうという自覚はあった。
- ファヴィオラ
- 「あれから会いに行った時、ナーエちゃんやナーロちゃんから皆さんのことをとても熱心に聞かれたんですよ?」
ナーエとナーロは村を発見した際に最初に遭遇した双子の少女だ。
顔は瓜二つなのだが、大人しいナーエと元気なナーロという具合に性格は対照的だった。
- ヴァジム
- 「あの二人がねぇ。やっぱり嫁入り先探してる感じなの?」
先日、村を救った際には代表格と思しき女、マイーシャから『嫁にどうだ』などと冗談めかして尋ねられたのを思い出しつつ。
冗談のように口にはしていたが、移民が土地に馴染むという意味では妥当な手だろうとも思う。
- ファヴィオラ
- 「マイーシャさんはきっとあの子たちの将来を考えて言ってたんだと思います。けど、あの子たちはもっと単純に、あなた達の勇姿に憧れたんだと思います」
子供が好きなのか優しい笑顔を浮かべながら話す。
「でも……色々と尋ねられて、改めて答えられることがあまりないって気付いたんです……私、全然余裕が無くて、同行する皆さんときちんとお話しできてなかったんだなって……」
そういうの、よくありませんよね、と眉尻を下げた表情で呟いた。
- ヴァジム
- 「ま、依頼の同行者でも深入りしないときはしないんだし、そんなもんじゃない?」
知らない、話をしなかったと。
後悔混じりに呟く様子に、気にすることもない、とあっさりと言って。
実際問題として、青年としては興味を持てない相手のことまで知ろうという事の方が“おかしい”と考えている。
「大体、それを言ったら僕だって君の事なんて大して知らないしね」
少女が自分のことを知らなくて後悔したと言うが、逆だってそうなのだと。
お互い様なのだから、何も気に病む必要などはないという主張である。
- ファヴィオラ
- 青年の気遣いに顔を上げ、それじゃあ、と口を開き、
「良かったらお話をしませんか?」
話ならもうしているが、そういうことでは無いのだろう。
「退屈な話だと思いますが、まずは私のことからでも……そうすれば、“大して知らない”じゃなくなりますよね?」
- ヴァジム
- 「話? まぁ、別に良いけどね。どうせ列車の時間も長いわけだし」
青年からしてみれば唐突とも取れる展開であったが、僅かに逡巡した後に是、と頷いた。
「少なくとも、会話もない道中よりは退屈しないよ」
興味があるかないかで言えばイエスともノーとも言い難い塩梅ではあったが、口にした通り。
全く会話もなしに駅の終点まで向かうよりは、よほどマシだろうという判断だった。
それこそあまりに興味を持てない内容であれば眠ってしまえばいい、と思っていたのもある。
- ファヴィオラ
- ありがとうございます、とはにかんで答えると、小さく咳払いをしてから話し始めた。
「私の生まれは――」
デライラの牧場主の娘であること
子供の頃から生き物に触れて育ったこと
大好きな両親のこと
軍属の道に進んだ姉のこと
姉に対して尊敬と憧れを持っていること
姉のようにはなれないと思ったこと
人や町を繋ぐ仕事に興味を持ったこと
ライダーギルドに勤めたこと
王都で〈光輝の環〉の存在を知ったこと
その理念に共感して参加を申し出たこと
面白おかしく脚色された様子はない。
大きな不幸も挫折も成功譚もない退屈な話だ。
- ヴァジム
- 「ふぅん」
聞き終えた、最初の感想というか相槌というかは、そんな気のない音だった。
聞いている間は、話し慣れているわけでもないだろう娘の語りに相槌を入れて、先を促したり気になったところへは口を挟んだりと話を運びやすいように、という程度の反応は見せていて。
その内容としては、予め言われていた通り、退屈な内容と言える範疇だった。
まぁ、普通に生きていた人間の半生なんて、面白おかしい方がどうかしているのだから当然といえば当然だろう。
それに、今となっては男にとってはそんな普通に生きていた、女の半生は十分傾聴に値するもので。
「まぁ、良い所の出だろう、とは思ってたけどね」
牧場主の娘で、軍でしっかり働いているらしい姉がいて。
身元のしっかりしたところに務めた挙げ句にそんなよく実態のわからないところに転がり込んで、と。
確かに、思っていたよりは“我儘”なのかもしれないな、と考える。
……それこそ、父親などは頭を抱えていたりするのではないだろうか。
-
「もしも、その団体への参加なんて認めない、って突っぱねられてたらどうしたの?」
ふと、気になってそんな質問を投げてみた。
- ファヴィオラ
- 語り終えれば、自分の話ばかりでごめんなさいと気恥ずかしそうに言いつつ、質問されると、
「そう、ですね……もし、そうなっていたら……」
目を閉じ、しばし考えてから答える。
「――自分で、始めてみようと、そう思っていたかもしれません」
「ほら、マイーシャさんも言っていたじゃないですか……何もない所からご先祖様が村を作ったなら、自分たちにも出来るはずだって……」
- ヴァジム
- 「なるほど」
その答えに、一つ頷いてその発言を咀嚼してから。
少し、面白そうに口の端を上げながら質問を重ねる。
「ねえ、君。……それ、屁理屈だってちゃんとわかってて言ってるよね?」
参加するのが駄目だと言われたからと言って、それじゃあ自分が作ればそれで良いのか、などという意味で言われてないということを。
それがわからない程、話を理解していないわけじゃあないだろう、と。
- ファヴィオラ
- 「……たぶん、私がそんなことを言い出したなら」
「人脈もない、実力も伴っていない私が、無謀な道に進もうとするくらいなら、既存の団体に預けた方がまだ安心できる……そう考えてくれると思いますから」
誰が、とは口にしない。
それは家族からの愛情や心配が自分に向いていることを確信していて、それを逆手に取った脅迫じみた物言いだ。
- !SYSTEM
- ファヴィオラが入室しました
- ヴァジム
- 「ははっ、自分を人質に取ったってわけだ」
思ったより良い性格をしている、と笑って聞き終えれば。
さて、と座り直して。
「まぁ話させたんだし、こっちも少しくらいは伝えておこうか」
実際のところを言えば、相手から話を聞いたからと言ってこちらもという道理はまったくない、ないのだが。
こちら側が“貰っただけ”というのは据わりが悪い。
そう枕を置いて、口を開いて行く。
――僕もね、割と良い所の出だったんだよ、これでも。
だけど、そういう“お上品”な生き方ってどうしても合わなくってさ。
ほら、これ。夏場でもこういう服着てるんだよね。それで、下はこうなってるの。
――僕の顔からのイメージとは、違うでしょう? だから隠してるんだけどね。
ま、それはともかく。昔っから、こういう怪我をするような喧嘩もしてるし、そうやって喧嘩をした相手を“踏みつけ”にするのが好きな訳。
そういう集まり何かにも顔を突っ込んだりもしたし、ね。
だから、そういうお上品な実家は色々あって追い出されたけれど後悔はしていないし、むしろこういう冒険者って生き方の方が性に合うって思ってるんだよね。
だって、そうでしょ? 蛮族だとか、この間のシーサーペントだとか。場合に依っては、討伐依頼の出ている人族の悪党だとかね。
そういった相手なら、“どう扱った”ってそうそう文句は出ないんだから。
ときには具体的なやらかしを例に出したり、如何に実家の暮らしが合わなかったかなども口にしながら、最後には“今”が趣味と実益を兼ねている、そう結んで。
「――だから、僕は冒険者をしてるって感じかな。――どう?」
僕って人間が少しはわかったかと、娘の語ったそれとは別方向に飾ることなく語り終える。
それは相手の語った平穏な半生には程遠く、しかし、だからこそこの青年を表した自己紹介だったことだろう。
- ファヴィオラ
- 自分を人質に、と評されると後ろめたい表情を浮かべたものの、そういうことになりますね、と一言で答え、否定はしなかった。
自分が話したのだからあなたの話もと求めるつもりはなかったのだが、青年が自身のことを語り始めれば、口を挟まずに聞きに徹する。
傷跡を見せられれば気遣わし気に、加虐的な嗜好があることを匂わされれば、微かに息をのんだ。
そして、どう? と問われて真摯な表情で言葉にしたのは、
「お話、聞かせてくださってありがとうございます。私には、その……まだ理解……いえ、実感しきれないんだろうっていう感覚がたくさんあるんだって……そう、思いました」
全く違う世界に生き、相容れない感覚を持つ相手の事をそう評した。
「あの……すみません、私が話をしたから……かえって気を遣わせてしまいましたよね?」
- ヴァジム
- 「いいよ別に、君のために話したわけじゃないし」
すみません、と謝罪を受ければそういうのは求めていないと追い払うように手でジェスチャーを行う。
単純に、聞かされただけじゃあ気持ちが悪いからそうしただけに過ぎないのだ。
「聞きたくもなかったら、そもそも話すなって言うよ、僕は」
それでも自分が話したからと食い下がられれば、そう言って切り捨てる。
そういうタイプだ、っていうのはさっきの話でわかったでしょ?と笑ってみせて。
- ファヴィオラ
- 「お話、うかがえて本当によかったと思っています」
青年の話は、贔屓目にみても身勝手で褒められた内容ではないのだが、お人好しの娘はそれが聞けて良かったと話す。
「家族には後ろめたい気持ちがあったんですが、自分が納得できる生き方を選ぶ人は他ににもいるんだなって分かって……それが嬉しかったです……」
自分の経験と全くかみ合わない青年の話から、共感できる要素を探し出して無理に当てはめているかのようだが、“自分のしたいようにしている”のだという筋は捉えているようだ。
「こういう、安心の仕方……よくないかもしれませんね」
そう言って、あまり見せたことのない少し息苦しそうな笑みを浮かべた。
- ヴァジム
- 「君の性格からすると、後ろめたさなんてまったくなかった、って言われたほうがびっくりだよ」
まぁ、と薄く笑いを浮かべて。
「僕は、君とは違って全く後悔も何もしてないけれどね」
むしろ清々してるくらいだと笑い飛ばして見せて。
それにしても、と。
自分なんかの生き様に共感を覚えて安心しようという娘の様子を若干の冷ややかな目で見遣りながら、口を開いていく。
「そんな僕に言わせてみれれば、君が感じているっていうその後ろめたさっていうのは……」
少し、言葉を選ぶように目を細めて考えて。
やがて、しっくり来る言葉が見つかった、と頷いて。
「……うん、そうだね。傲慢だ」
そう娘の有り様を評して、口にして思った以上にピッタリと嵌った感覚に嗤った。
「だって、そうじゃない? 自分が、自分で選んだ生き方をしておいて、その上で周りからは変わりなく接して欲しい、評価を得たいって君は思ってるってことなんだから」
我が道でもって己という存在を評価して貰おうというその生き方は、――つまり自分は正しいと確信しているからに他ならないはずだ。
そうだと言うのに後ろめたさなんぞを覚えようというのは傲慢と呼ぶ他にないだろう、そう断じた。
- ファヴィオラ
- 「――……傲慢」
娘は鸚鵡返しにその言葉を呟いて、目をパチクリと瞬かせた。
マリンブルーの瞳に宿った感情は――反発や怒りではなく、納得。
「ああ――そっか、そう、ですね……私って、そういう人間、かもしれません……」
自分の胸に手を当て、うん、うん、と何度も頷く。
その様子は、青年の言葉を噛みしめ、咀嚼して、呑み込んでいるかのようだ。
「ええ……はい。なんだか……しっくりと来る感じがします……」
娘は笑みこそ浮かべていないが、胸の支えが取れたような顔でそう答えた。
- ヴァジム
- 「――……もっと反論とか『私はそんな人間じゃありません』とか言われるかと思ってたんだけど」
思った以上に、あっさりと納得して受け入れる様子に拍子抜けしたように言う。
正直に言って、半ばは“煽り”のつもりで言ったところがあるのは事実だった。
- ファヴィオラ
- 「もし、私が本当にそんな人間じゃなかったら……今の私はここにいないと思うんです」
娘は言葉を続ける。
「――結婚して、牧場を継いで、子供を産んで、育てて……姉さんが休暇で帰ってきたら、皆で出迎えて……」
本来、自分が辿っていた筈の暮らしはありありと想像できた。しかし、
「でも、そうはしなかったんです」
皆が自分にそれを望んでいるのは分かっていたのに。
- ヴァジム
- 「そう? まぁ、そうだね。本当に、周りの意見をしっかり受け入れるだけの良い子ちゃんなら、そんな風に自分の意見を押し通したりはしないか」
娘の言葉を聞きながら、相槌を打つように。
一度は疑問を呈しながら、すぐにその疑問を引っ込めて、その通りだと頷いた。
「そうだね。君は、そうしたくなかったわけだ」
“しなかった”という娘の言葉に。
自分の意思で、そのあり得たかもしれない未来絵図を選ぶことを拒んだのだと頷いた。
「結果として。愛されている自分を人質に取って、親を脅迫してしたいようにした、と。――うん、思っていたよりも、随分とまあ悪い子だね」
くすくす笑いながら。嗜めるというより、楽しそうな様子で。
娘の言葉を、有り様を肯定しながら。
これまでの道程を、そのように評した。
- ファヴィオラ
- 「あ、あの、えっと……さっきのは、もし、そうなっていたらって話で、実際にその、言葉で脅したりとかは……うぅ……そういう言い方をされると、恥ずかしいです……」
両手で赤くなった顔を隠して頭を振った。
- ヴァジム
- 「……知ってる? その方が余程タチが悪いし、そもそも言葉『で』って言ってる時点で、そうしたって自覚あるでしょ君」
呆れた声音で指摘する。
目に入ってくる所作そのものは可愛らしい、と表現出来るようなものなのだけれども、聞かされた所業がまったく可愛くなくてそうは思えない。
- ファヴィオラ
- 「……し、知りません……。……あ、あっ、あのっ」
ぷい、と顔ごと背けて知らないと言い張る。
そのまま黙り込んで有耶無耶にしようとするのかと思えば、自分から声をかけた。
「……よ、良かったら、い、今までどんな依頼をこなしてこられたのか、き、聞かせていただけませんか……っ! え、えっと、守秘に関わる内容は、も、もちろん結構、ですから……っ」
そして、あからさまな話題変更。先ほどの追及が余程都合が悪かったのだろう。
だが、その口振りには確かな興味も含まれていて、ただ話を逸らそうとしているわけでもないのだろう。
「……ただ、あなたの話を聞いてみたくて」
ただ、こんな、聞く人が聞けば誤解しか招かないような言葉を付け足してくるのは、それこそタチが悪い。
- ヴァジム
- 「……君さぁ、」
その口振りに思う所もあり、指摘をしてやろうかと口を開きかけたが、それこそどの口が言えたものか、と思い直して口を噤んだ。
小さく頭を振って、気を取り直す。
窓の外の風景に目をやれば、それなりに話し込んだと思ったが目的まではまだ掛かりそうだ、となれば。
「ま、いいけど。じゃあ、どういったのから聞きたい?」
どうせ時間を過ごす必要があるのであれば、もう少しくらいは会話に費やしても構わないだろう。
聞きたい内容のアンケートを取って、相手の求める話を提供してあげるとしよう。
- ファヴィオラ
- 「えっと、開拓村からの依頼って他にはどんな風な――」
青年が話を聞かせてくれると分かると、娘は気持ちを切り替えたのか思いのほか冷静に聞きたい内容を挙げ始める。
その興味はやはり、魔物の討伐や、遺跡、財宝、秘境などの冒険要素の強いものではなく、人々の生活に関わる身近な脅威についてのものだった。
- ヴァジム
- 「開拓村っていうか、まぁそういう最前線のだとやっぱり蛮族絡みが多いよね――」
冒険色の強いものではなく、生活色の強い話題をとそんな風に言い出されば、まぁ知ってたけど、という肩を竦めた様子を見せる。
そういうことであればと前線の生活の脅威はやはり蛮族、特に妖魔回りでと語り始める。
娘の強く求めているであろう、強く生活に肉薄した脅威というわけではないが。
それでも蛮族への対処や気を付ける際の注意点などという意味では、必要とする相手に渡す知識としては地に足のついたものだったと言えるだろう。
- ファヴィオラ
- そうして、二人は列車が目的地到着するまで会話に興じた。
ウッズビーを出発し、ハクナ村の住人の一時疎開先になった開拓村に着くと、恩人の姿を見たマイーシャらの盛大な歓迎を受けることになった。
そして、翌朝。
支援物資の引き渡しを済ませて軽荷になった幼竜の背に乗り、二人は再びユスの森の中に飛ばされてきた漁村、ハクナ村へと向かうのだった。
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第三種接近遭遇、了。
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- ファヴィオラ
- 20241021_0 ログファイルネームヨシ!