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深夜の星の標にて

20240215_1

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 が入室しました
 
 
 
 
 
 
 
 
リアン地方 イルスファール王国 星の標
国内でも有数な冒険者ギルド支店としてこの店はその名を輝かせている
数多くの冒険者を揃え、高い依頼達成率を誇り、国の内外、組織、個人を問わず依頼が舞い込んでくる
夜は酒場としても機能する此処は、緊急対応のためにも常夜の営業をしている
だからだろうか、酔い潰れた冒険者達がテーブルに突っ伏していたり
酒瓶が転がる時間帯というものは、存在してしまうのだ
そんな折、1人の少年がテーブル席の1つでグラスを傾けている テーブルに置かれている瓶は、麦の蒸留酒のもので
時節柄氷には困らない。ロックテイストでゆっくりと味を確かめるように少年は酒を舐めていた
ダニエル
茶色の髪、青い瞳 白い肌の少年は、コートを席の1つにかけて 1人で酒を飲んでいた
いいことがあった訳ではない、悪いことを押し流すのにアルコールが必要だったわけでもない
ただ、そうしたかったから、そうしている。孤独に自由な時間を嗜んでいる…といえば聞こえはいいが、
要は少年もまた、付き合ってくれる相手を捕まえることが出来なかっただけなのだ
――……」 はー…とアルコールに染まった息を吐き出して
睡魔が自分を連れて行ってくれるまでの時間を、楽しんでいる
 
周囲からは既にぐー、すぴー、と 先に行ってしまった者たちの声が聞こえてくる
あれだけ活気がある店も静かなもので 寝息といびきがBGMになっている
ダニエル
「………」 もっとまともな店で飲み直してもいいか、とも思うのだが
酒が飲みたくて此処に居るわけじゃない、と少年は自分で回答を導き出す程度にはまだ理性が溶け切ってなかった
少年は待っていた、というより。会いに行こうにも方法がないから、此処で待っている、と言う事情を把握していた
からん、と氷が酒の温度に耐えかねて回る
少年は待っていた、こういう時、気だるげにやってきていた彼女を
――、んだよ」 悪態めいた言葉が、つい漏れる 「顔見せない時はとことん見せないよなぁ……」
明日をも知れないのは自分も一緒で、この界隈はいつだって"またな"が最後の言葉になることは珍しくない
戦場で兵士や傭兵たちが別れ際に、"幸運を祈る"と、添えるように
酒を舐める 息をつく 1人で飲むには、このボトルは多すぎる
いっそ此処に、ふらっとあの風来神の神官が何食わぬ顔でやってきてくれたら気も紛れるかも知れない。
普段組む奴らには、あまり見せたくない顔を今している気がするから
「……また旅の話を肴にしてえんだけどな」 1つ、息をつく
待ち人は来ない。来ると思って此処には居ない。けれど、待つことしか出来ないから、少年はただ時間を潰す
酒を足す、氷を入れる かき混ぜる
チェイサーを口にして ゆっくりとゆっくりと 酒を飲む
「……声が戻って……、あいつも元気に駆け回ってるところか…」
「………、近況ってのは、アンテナ伸ばしてないとどうにもなんねえな」
斧を扱う冒険者を思い起こして そして待ち人達も含めて、敢えてその辺り追ってない自分に苦笑する
「……、結局、どこまで行っても、やれることは限られるか」
彼女たちがどうしているか、気にならないと言われれば嘘になる。ただ、仕事やタイミングで線が交わらないだけで、確かにこの店に居るのだから
「…俺の間が悪いだけだな」 結論として、そうならざるを得ない
南部で"少佐"の足取りを調べて、そのために蛮族達と戦い続けて、"少佐"の作戦を突き崩すために無茶もやった
ベスティアやキャロラインにはそれを南部で大暴れだなどと言われていたが、結果的にそうなっただけだ
足取りも何も、掴めちゃいない。掴めちゃいないんだ
「……」 ぐいっと一息に呷る 目が蕩けるような気がする 視界が揺らぎ 頭がふらっとする
「はぁ…」 熱い息を吐く 背もたれに寄りかかって 手の甲を額に当てて 天井を見つめる
「前に進めてんのかな、俺……」 ぽつり、と呟いて
それに応えるように、氷がからん、と音を立てる
 
答えるものは誰も居ない ただ、ゆっくりと夜が深まっていくだけ
ダニエル
「………、弱ってんなあ……」 苦笑して
身体を起こす なるようにしかならないのは、よく分かっている
「結局……」 酒を注いで 「誰かに甘えたいだけなんだな。ガキかよ」
「ガキだよなぁ………」
強がっても仕方ない、とは言え此処まで格好がつかないと笑えてくる
「やっぱ、誰も来なくていいな……」 それでも、此処で飲んでいたことは、やはり甘えの形で
それが、自分の青さだと、少年は自覚する
「みんな元気で居てくれたらいいし、巻き込むのは少し違う」 ボトルの蓋を締めて 首を掴む
「言ったところで何かが変わるわけじゃない……」
「現実が、動くわけじゃない」
「………、俺がやらなきゃな、そうだろ、少佐」
グラスを干すと、少しふらつきながら、少年はボトルを持って階段を上がる
酔客達の寝顔に見送られながら
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