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- リノア川がほど近い場所に流れ着いたその遺跡の内部は、じっとりと湿っていた。
- 位置としては人族の領域に偏っているとはいえ、蛮族との抗争が長く続いている地域である。耳を澄ませば、もしかしたら遠く南の地帯での戦いの音が聞こえてくるかもしれない。
- しかし、遺跡内部を歩く少年の耳に届くのは、南の戦闘音でもなければ、冒険に胸躍らせる探索者たちの呼気でもない。
- 重い装備に身を包んだ、巨躯の蛮族の闊歩する足音と、怯える人族たちの荒れた呼吸。
- クヴァレ
- 「――……っ」 此処まで共に行軍してきた人族の彼らを、一つ所に押し込まれているのを見て、少年は駆け出し掛けた。
- しかし、それを遮るのは、如何にも不健康そうな長身痩躯の男。黒い甲冑で固めた、蛮族に身を窶したナイトメアの男だった。
- "やるべき事をやってもらう"などと視線で命じられて、少年は身を震わせた。闘気を宿したその瞳が、少年の次に背後の人間達に向けられれば、それは脅迫とも捉えられる。
- 身体が震えるのをなんとか耐え凌ぐ。蛮族が取り囲む中、彼らは遺跡内の最奥にある、広い部屋へと向かっていった。
- ――向かった先の部屋は荒れ果てていた。頭上にはぽっかりと開いた穴があり、そこから虚しさを感じるほどの青い空が広がっている。
- ナイトメアの男が、付き従わせている妖魔へ顎で命じれば、妖魔は抱えてきた麻袋を遺構へ横たわらせた。
- それは人一人を優に包み込めるほどの大きさで、麻袋の口からは、一房の明るい赤髪が零れていた。
- 衣擦れの音が続いて、麻袋に包まれていたものが顔を出す。静かに瞼を下ろし、今にも動き出しそうな少女の身体だった。しかし、その少女にどんな声を何度かけたとしても、彼女が起き上がってこないということは、この場にいる誰もが知っている事実である。
- 死後硬直で体を横たえるのも手間取るかと言えば、保存の魔法によってその懸念も解消されていた。柔らかい、しかし熱のない体を遺構へ横たえて、妖魔が下がった。
- その一部始終を眺めていたナイトメアの男が、頭三つ分以上下にある少年へと視線を投げる。質量を伴ったその視線に、再度少年が肩を震わせたが、それを気に留めることもなくナイトメアは腰に佩いていた一本の剣を引き抜いた。
- 「――さあ、お前の出番だ」 低く、唸るような声。時折天井から落ちてくる水滴が地面を叩く音の代わりに、室内に響いたその声は、後戻りを許さない力強さがあった。
- 彼は引き抜いた剣――刀身は黒く、見る者が見れば剣先から血のような液体が滴っている――を少年へと押し付ける。
- クヴァレ
- 「………」 それを目にして、少年は事が始まる前に明かされたその剣の話を思い返した。
- 〈血の欲望〉と呼ばれるその剣は、かつて別の大陸で生み出された秘薬と同等の効果を齎すと謳われている魔剣だった。望んだ対象に穢れを付与したり、魔剣の影響下にあるものを――強制的に蘇らせるという力を秘めていると、ナイトメアの男は語っていた。
- ただし魔剣を扱える存在は限られているらしく、人族と蛮族、両方の可能性を宿した身にしか扱えないのだという。果たして自身にその力を引き出せるかといえば確信はなく、このナイトメアの男にしてみても、ほとんど余興か実験くらいの目算で試しているにすぎないのだろう。
- それでも、と少年は思ってしまったのだ。
- クヴァレ
- 「――…」 それでも、もし……
- もしも本当に彼女――アマルガムが蘇るというのなら。
- クヴァレはナイトメアに押し付けられた魔剣を恐る恐る手にした。
- 人質がいる。自分だって、断ればどうなるか分かったものではない。それを隠れ蓑にして、心の奥底に溜まった黒くドロドロしたものが、蓋を押し上げて飛び出そうとするのを宥め正当化し続けた。
- 数秒時間が止まったかのようだった――静けさに満たされた室内に、少年の小さなうめき声が上がる 「……ん、――グッ!」 魔剣を手にした途端、体中の血が沸いたのを実感した。
- 魔剣に思考が押し流される。何故だ、何故――起きてくれなかったのだろう。あんなに鮮烈に生きた方が、あんな死に方をして終わるはずがない。また一緒に、何処か旅をしようと約束したのに……。今度は自分が皆を連れていくと、そう伝えたはずなのに。
- 「……っ、いやだ――イヤだ……っ!」 魔剣から流れてくる力が強くなっていくほどに、想いが掻き立てられる。
- 取りこぼしてしまったパズルのピースを必死でかき集めるような想いで、目の前で横たわったままのアマルガムへと視線を向ける。そうすると、魔剣の力が、形となって少女の身体へと伸ばされていった。
- 魔剣というのは真実だった。もし、本当に、この魔剣の秘めたる力が"蘇生"という祝福を齎すのであれば――。少年が喜びと、困惑と、まだ残っていた理性のうちで藻掻いていると
- ――背後から、蛮族の汚い悲鳴が上がった。
- 少年が振り返ると、蛮族の身体が足元から石化している姿が視界に映った。
- クヴァレ
- 視界に入れた途端、石化のスピードは速まり、一瞬のうちに視界に入った他の妖魔もろとも、美しいターコイズへと変貌する 「――……な、にが……」
- 「……何をした、お前ッ!」 この状況に混乱を見せたのは、少年だけではなかった。傍らで控えていたナイトメアの男が、少年の謀反に怒りもう一本の剣を抜く。
- クヴァレ
- 「……ッ」 自身に向いた殺意に、クヴァレが思わずナイトメアの男へと視線を向けた。
- 途端、ナイトメアの男も、他の妖魔と同じくして、一瞬にして煌びやかなターコイズへと変わってしまった 「――……きさ、」 言葉を最後まで紡ぐことなく。
- クヴァレ
- 「……な、なんで。どうして……ッ」 そんなつもりはなかった。石化の邪眼を使うには、隠された右目を晒す必要がある。それに、こんな一瞬で邪眼の能力が発揮されるなんてこともない。
- だって、自分な半端者なのだから。
- 震える手で、自身の晒されたもう片方の目を塞ぐ 「何が……いや、違う。これは――」
- 魔剣のもう一つの能力だ。穢れを付与するという力――これは、自分にまで影響を及ぼすのだ、という事に今更ながらに気付いた。
- 「……――ッ、」 魔元素を根こそぎ喰らっていくかのような感覚に、少年が膝をつく。
- その、戸惑いの横で。――カリリ、と。爪が、ひっかくような小さな音が、はっきりと耳へ届く。
- そして、スゥ、という。確かな呼吸音が続けて静寂を割り。
- クヴァレ
- 「――……え…」 耳に届いた音に、呆然とした声を漏らす。
- アマルガム
- 「……」 ゆっくりと、恐ろしく緩慢な動きで、瞼を開いた。
- 「……ク、ヴァレ……? ここ、は……」 ゆるゆると震える腕で半身を支え、体を起こす
- クヴァレ
- 「………アム様……」 呼ばれた名前に、名前を返すことしかできなかった。
- アマルガム
- 「何が……どうなっている……?」 よろりと起き上がり、檀上から立ち上がろうとするも、力が入らず崩れ落ちる
- クヴァレ
- 「……アム様!」 慌てて駆け寄り、見た目よりも軽いその体を抱きとめる。
- 「――……」 両腕に収まる体に、生者の熱がある。
- アマルガム
- 「ぐ……っ」 軋む体に呻き、クヴァレへ寄り掛かるようにして何とか体を支える
- ぼんやりと、力を入れることもままならぬ己の手を眺め――そして、クヴァレを見た。
- クヴァレ
- その事実に、呆然としたまま少女の背中に腕を回して、搔き抱くように爪を立てた 「………ア、ム様」
- アマルガム
- 良くないとはっきりわかるマナを感じさせる魔剣。己の身体が実感するそれ
- クヴァレ
- 「っ!」 アマルガムからの視線を感じる。死者を石化することはなかったが、蘇った今、どうなるか分からない。少年は慌てて、右目だけ隠していた眼帯をずらして、両目を覆った。
- アマルガム
- 「まさか。――君は、私を……力づくで蘇生させたのか?」 目を隠すしぐさも、真実へ寄るための後押しになっていく。
- クヴァレ
- 「アム様、お体は何処も――」 労わるように、喜色を滲ませた声色で少女に声をかけようとするも、アマルガムからまろびでた問いに固まった。
- アマルガム
- 「……」 硬直する様子を見て、か細い吐息が漏れる。
- 「どうして……どうしてだクヴァレ……なぜそんなことをしたんだ」 起き上がり、混乱する頭では、普段のような押し殺した思考ができない。思うまま、口は滑る。
- 「私は――懸命に生きれば、次が……ありふれた特別が、得られるかもしれないと……わたしは……!」 寄り掛かり、縋りつくようにしたまま、ほぼ無いといえる握力でクヴァレの胸元をつかむ
- 「死にたがりだったわけじゃない。生き抜けるだけ生きて、そして死ねればいいと――」 瞳に、涙をたたえて、見たこともないような頼りない表情で
- クヴァレ
- 「……次――って……」 アマルガムの言葉に、再び呆然とした声を漏らした。
- アマルガム
- 「わたしは、人間に、なりたかったのに……!」 血を吐くような怨嗟を、か細く手折れそうな声で叫んだ
- クヴァレ
- 「………」 常に強くあらんとした彼女の、聞いた事もない声に、眼帯を通して見えた見た事もない表情に、唇が戦慄く。
- アマルガム
- ぐったりと、力無く寄り掛かり、途切れ乱れる呼吸をクヴァレの胸に押し付ける
- クヴァレ
- 最後まで抵抗があったのは事実だ。人質を取られ、それが拍車をかけたのもまた事実。それでも、魔剣を握った途端に胸中を駆け巡ったのは、やはり押し留めておきたかった黒い感情だった。
- アマルガム
- 「……私を求めてはくれないのか、クヴァレ。君でなければ、ルリでも、ルカでも、リアレイラだってかまわない。私を、求めてくれるなら……穢れに塗れた生だって……なあ、クヴァレ……」 ぐずる子供のように、寄り掛かったまま泣き洩らす。
- 「わたしを、とくべつに……」 そう言って、ゆっくりと顔を上げ、クヴァレと顔を突き合わせる
- クヴァレ
- 「――…わ、」 アマルガムの言葉に理解が及ぶまで、多少の時間がかかった。
- 「わた、僕……は」
- 「……貴方に死んで欲しく、なかったのです。な、何故……そんな……アマルガム様はアマルガム様のままで良いはずです!そう思っているのは、私奴だけではありません……貴方と共にいらっしゃった人族の方々だって、貴方様に生きていて欲しくて此処まできたのです」
- アマルガム
- 「……」 力無い瞳で、クヴァレを見返す。
- クヴァレ
- 「貴方が……貴方が求めろと仰らずとも、私奴はそのままのアマルガム様を求めております!どうか、どうか生きてください……」
- アマルガム
- 「――ん、っく……」 これではだめだ。自分の胸を押さえ、激情のまま踊りそうになる口を閉ざす。大丈夫。――こういうことは慣れている。
- クヴァレ
- 「――どうして、死んだままで居たかったなどと……っ」
- アマルガム
- 「――クヴァレ」 浅い、僅かな呼吸のうちに、見慣れた――在りし日のその姿に様相を変える
- クヴァレ
- 「………」 ぎゅっと唇を噛みしめる 「ルリ様や、ルカ様、それにリアレイラ様がお待ちです……あの方達だって、酷く悲しんでおられました。どうか………」 縋るように言葉を重ねる
- アマルガム
- 「死人の戯言を聞く必要はないが、私の言葉を聞け、クヴァレ」 力は入らぬまま、しかし確かな厚みのある声とともに、クヴァレの方へ手を置く
- 「君が望んでいるものは、間違ったものだ。君は、道を踏み外そうとしている」
- クヴァレ
- 「もう死人では――っ」 弾かれたように顔を上げる。眼帯で隠されてはいるものの、両目は眼帯越しにしっかりアマルガムを見つめていた。
- アマルガム
- 「君が思い描くそれに、君の姿はあるか……?」 体温が戻り始めたのに、冷たいと感じる手がクヴァレのほほを撫でる
- クヴァレ
- 「………」 無言で頬に感じる指先の熱を受け入れた。心底、何を言っているのか分からない、という困惑した態度だけが返ってくる。
- アマルガム
- 「君は、ただ、私や、彼女らが幸せそうに過ごしている風景画を、あたたかな日差しのもと眺められる穏やかな椅子が欲しいだけなんじゃないか」
- 「幸せそうに過ごす仲間をみて、ああ、幸せだと。自分がそう感じたいだけなんじゃないか。だから、絵のなかに君はいない――」
- クヴァレ
- アマルガムの一言一句飲み込もうとして、息が詰まった。自然と、眼帯に隠された大きな瞳が見開かれる。
- アマルガム
- 「君の言葉に嘘はない。自惚れでなければ、きっと悲しんでくれるだろう。騒いでもくれるかもしれない。けど――彼女たちの明日の絵に、もう私は居ないんだ。ちゃんと、前を向いて、立ち上がれる戦友たちなんだ」
- クヴァレ
- 「…いやだ、……いやです」 本当に、己の死を受け入れている者の言葉だ、それは。
- アマルガム
- 「だけど君は、思い描く幸せじゃない絵画を見て、こうじゃないと――君は、思わぬところで蛮族的だと思うよ。そう思った君は、削げ落ちた私の絵を、前を見る仲間たちの横に張り付けたんだ」
- 「酷い傲慢さだ。……それは、破れて出来そこなった絵でしかない。どう張り付けなおしたって、君の望むものになんて、ならないんだ――クヴァレ」
- クヴァレ
- 「それ、でも……っ」
- 耳の奥に、先日聞こえた泣き声が木霊する 「……それでも…蘇ったアマルガム様と会えば、ルリ様もルカ様も…リアレイラ様も、喜んでくれる、はずです……」
- 「アマルガム様だって、本当は、もっと一緒に――」
- 「せ、先日申し上げた旅へ行きましょう。すぐに、行先を選びます。少しだけお時間を頂ければ、すぐに……」
- アマルガム
- 「駄目だ」 クヴァレの手を取り、今出せる限りの力――わずかな力で握りしめる
- クヴァレ
- 握られた手を、こちらも握り返す 「……っ、アマルガム様とお会いしたいと仰っていた方々だって、今奥の部屋におります。会えば、気が変わってくださるかもしれません」
- アマルガム
- 「駄目なんだ、クヴァレ」 ふるふると首を横に振る。
- クヴァレ
- 「今度は、私奴も一緒に楽しみます。楽しめるよう努力いたします……だから、どうか……」
- アマルガム
- 「……クヴァレ。先ほど言った、寝ぼけた私が漏らした言葉は、聞いていたな」
- 「私を求めてくれるなら、応えよう。だが、今の君の求めには、応えられない」
- クヴァレ
- 「……わ、分かりません。申し訳ございません……理解できるよう、努力致します。だから、学ぶ時間を――」 更に強く手を握った。いつしか成長した少年は、しっかりと男としての膂力を備えるようになっていた。
- アマルガム
- 「ああ。そうだな。そうとも……」 だんだんと、芯に巡り始めた血を受け、徐々に力を取り戻し――己の足で立ちあがる。
- 「君のそれは、解除できそうか?」 と、魔剣を握り、本来よりも穢れと力を増した様子を示しながら問いかける
- クヴァレ
- 「――………」 手にしている魔剣を見下ろす。
- 瞬間、アマルガムの蘇生まで解除されないかと不安に駆られる。何が正しいのか、どうすれば彼女を現世に引き留められるのか、混乱した頭では考えられない 「……わか、りません」
- アマルガム
- 「そうか。……すくなくとも、そのままではあの街へ帰れまい」
- 「君がそうなった遠因――いや、原因だな。それは私の死にあるのだろう」
- 「君がその魔剣を手放し、君が憧れた絵画が描けるようにしよう」
- クヴァレ
- 「――……え」 アマルガムを見上げる。
- アマルガム
- 「――だからクヴァレ。しっかり考えるんだ。私の言った言葉の意味を」
- 「先ずは一人で考えて、それから、きちんと今を生きるみんなと、よく語らうんだ。死人のわたしとではなく、血の通った仲間たちと」
- クヴァレ
- 「……っ」 死人ではない、もう。そう言い募ろうとしたが、彼女の落ち着いた声色に、それも押し留められた。
- 見せた弱音は一瞬だけ。彼女は元より、自身の命運の在り処を決めている。
- アマルガム
- 「……私は、生き直すだけの熱を、今は持たない」 血が通っても冷たいままの手でクヴァレを撫ぜる
- 「君か、君でなければ誰かが……いや」 子供のように縋った言葉を思い出して、気まずそうに言葉を飲み込む。
- クヴァレ
- 「………あむ、さ」 彼女のその様子に、取られた手とは逆の手で、アマルガムを撫でようとして
- そのせいで魔剣から手を放してしまった 「……ッ!」 蘇生が解除されてしまうと瞬時のうちに焦燥に駆られたが
- 目の前の彼女が急に熱を失って倒れる事もなければ、身の内に沸き立つ強い穢れの気配が収まることもなかった。
- アマルガム
- 「それを何とかしなければならないが……」 あわあわと剣を取り直すクヴァレを見て苦笑し
- 「なあ。私が……この遺体がなくなったとすると、ちょっと騒ぎにならないか? 皆は知っているのか」
- クヴァレ
- 安堵と困惑が押し寄せる 「………」 もはや、彼女に対して紡ぐに値する価値のある言葉は、自分からは出てこないと思いさえした。
- 置手紙を残しはしたものの、それ一つで混乱が収まるはずもない。ふるりと首を横に振った 「……手紙、は」 残してきたと。それだけを口にするのが精いっぱいだった。
- アマルガム
- 「そうか。……どういうことになるか分からないが、まあ、探しに来るな。そうなると――なんだ。まさかここは私の故郷か?」
- クヴァレ
- 「………」 今度はこくりと頷いた。
- アマルガム
- 「……粋な計らい、ではないんだろうな。別の思惑が噛んでいるか。……あれらは味方だったわけではないんだよな」 石化してしまった、何者かを指さして問う
- クヴァレ
- 「――…申し訳、ございません。私奴が、油断しておりました……」 少年は訥々と、これまでの経緯を語った。
- アマルガム
- 「……そうか。とんだとばっちりだったな、クヴァレ」 黙ってその話を聞ききり、薄く笑った。
- クヴァレ
- アマルガムと共に王都へ避難した人間達が、アマルガムを故郷に帰したいと懇願したこと。その入れ知恵をしたのが、ナイトメアの男であること。自分もついてこいと言われ、遺体を盗難されることを恐れついていったこと。
- それらを順を追って、説明していく。途中途中、声が詰まったり、方便を混ぜる事を考えもしたが、彼女には真実を知る権利があるのだと無理くり続けた。
- アマルガム
- 「……君なりには、頑張ってきたようじゃないか」
- クヴァレ
- 「………」 再び沈黙して、首を横に振った。
- アマルガム
- 「そんなところもひっくるめて――君が悪い男だとは思わない。もしそう思っていたら、とうに排除している」 両肩に手を置き
- 「ただ、ずっとボタンを掛け違ったような……君と、他の皆が会話しているところ横目で見て、歯車のかみ合わなさも感じていた」
- クヴァレ
- 「……もうし、わけ……ございません……」
- アマルガム
- 「駆けつけてくるであろう皆と合流すれば、今の事態も早急に片付くだろう。事も、平穏無事に終わるに違いない。だが――君の掛け違ったボタンは、きっとそのままだ」
- クヴァレ
- 「……」 ルリやルカ、リアレイラ、それにアマルガムの言葉が理解できない事や、彼女のいう"ボタンの掛け違い"が発生するのは、自分が半端者だからだろうか。
- そう考えに至れば、視線を下ろして俯いた。
- アマルガム
- 「良い機会だ。少しだけ距離を置いて考えよう。その時間は、私が作ってやれる」
- クヴァレ
- 「――……そ、の間だけ、でも…」
- 「お傍に、いてもよろしいでしょうか。生きていて、くださいますでしょうか……」
- アマルガム
- 「ああ。一緒に居よう、クヴァレ。無理やりたたき起こしてくれた君には、私を一人にしないという責務がある。それに……さっさとくたばった私には、君に教えてやれることを詰め込んでやると言う、義務があるからな」
- 「だが、その間ずっと考えてくれ。君が、君であることを。貰った名前は名札じゃない。君の名前だということを、きちんと考えてくれ」
- クヴァレ
- 「………」 唇が再び戦慄いてから、噛みしめられた。
- 「……はい」 それは気落ちし切った声色だったが、しっかりと返答する。
- アマルガム
- 「その答えが出せなかったら、分からないって、言ってもいいんだ」 震えるクヴァレの頭を撫でて
- 「きちんと考えて、わからなかったらそれでいい。考えてもわからなかったと、皆に聞いて、答え合わせをしよう。そうしないと――君はまた、遺体をさらって同じことをしそうだからな」
- クヴァレ
- 頭を撫でられる感覚に、胸に溜まっていた黒いドロドロとして気持ちが、再び蓋に押し込められていった 「………」
- アマルガム
- 「君が、あの輪にきちんと帰れるように。暖かい場所が作れるように、しよう」
- クヴァレ
- 「それは……」
- 「――……」 本当に帰れるだろうか。受け入れてもらえるだろうか。疑いたくはなくても、そんな疑念が渦を巻く。そしてその場所に、やはり彼女はいてくれないのだろうか、とも。
- アマルガム
- 「先ずはここから離脱する。駆け寄ってくるであろう皆には悪いが、クヴァレの支払猶予のために、ここは離れさせてもらおう」
- 「この次、まみえる時にはきちんと対話ができるように、心づもりをしておくんだ。何度も逃げられないからな」
- 「さて、その逃げる先だが――この私の故郷、その親戚の遺跡がこの北へ進んだ先にあるらしい」
- クヴァレ
- 「……申し訳ございません……」 彼女に対してか、それとも巻き込んでしまった全てにか、小声で謝る。
- アマルガム
- 「潜伏先としても手ごろそうだし……その魔剣、第二の系譜に見える其れは、ここに隠されていた魔剣だろう?」 良くは知らないが、と前置きしたうえで問いかける
- クヴァレ
- 「……」 眼帯の奥、視線を横に流して、記憶を浚った。先刻ナイトメアの男が語った魔剣の話に、そんな話があった。
- アマルガムにこくりと頷く。
- アマルガム
- 「なにかしらの情報もそこで手に入るだろう。ここの調査は――皆に任せるか」 死んでからか、生前より幾分カラリとした様子でそのように決めて頷く。
- 「悠長にしていると彼女らがやってくるぞ。きっと目を怒らせてるに違いない」 石化した蛮族どもの群れから、ミノタウロスらしき影を探し出し、その重厚な斧を取り上げる。
- クヴァレ
- 「……本当に、良いのでしょうか」 そんなアマルガムの背中に、ぽつりとした声がかかる
- アマルガム
- 「間違ったことを、君はした。と思う。――だが、良かったのかと問われたら、どうだ。君は、良くないことをしたと思うか?」 と、自身の胸に手を当てて問い返す
- クヴァレ
- 「――……」 応えようとして口を開いて、先ほどの言葉を思い出して俯いた 「……わ、わかりません…」
- アマルガム
- 「良い答えだ。――私だって、今やってることが良いことか、実のところ分からない」
- 「だが、君を思えば、こうすべきだと私は思う。――これは良いこと、のハズだ」
- クヴァレ
- 「………」
- アマルガム
- 「君も、君の行動はすべて良いことと思ってやっていると思う。だが、間違っていると思うのは、君だけが良いと思うことをそうだと思っているところだ。」
- 「きちんと、仲間の顔を思い浮かべながら、次の一歩を考えることだな」
- 「皆が笑える良いことを、選ぶんだ」 まだ力が戻り切らないのか、よろつきながら斧を肩に担ぎ、歩み始める
- クヴァレ
- 「……はい…」 聡い彼女には見透かされているのだろう。脅されたと、他に逃げ道がなかったのだと言い募る事はできても、結局のところ、根源は自分のエゴだったのだ。
- 「……っ!」 よろめいたアマルガムに、慌てて駆け寄り、手を貸す。
- アマルガム
- 「む。……君、妙に腕力が付いたな」
- クヴァレ
- 「……そ、そう、でしょうか……」
- アマルガム
- 「そうとも。……ルリに腕相撲でもして負かせてやるといい」
- クヴァレ
- 「…………」 そんな想像をして、数日振りに苦笑を漏らした。
- アマルガム
- 「さ、行こうか」
- クヴァレ
- 「――…はい、アム様」