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幕間

20220724_1

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エルミニオが入室しました
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オルテンシアが入室しました
オルテンシア
色が…
 
 
〈星の標〉:個室
エルミニオ
真黒だな……
オルテンシア
これが私の罪……
“スモールボックス”でのコーデックス奪還作戦から数日、各々が十分な休息を取った後のことだ。
エルミニオの下へある報せが届いた。内容はごく簡潔なもの、ある人物からの面会の要請だ。
指定の日時は今日、場所はお馴染みの〈星の標〉
依頼人との内密な話などに用いられる奥まった個室へと案内される。
部屋を訪れると中に居たのは、友好蛮族の証である首輪を身に着けた銀髪の女性、オルテンシアただ一人。
エルミニオ
「あーと、ここか?」 扉が開かれれば、見慣れたオレンジの髪と紫の瞳が覗いた。
オルテンシア
「……」 少年がやって来ると顔を上げ、そちらに顔を向けた。表情には決意のようなものがうかがえる
エルミニオ
「待たせたな」 その決意を受け止める様に、普段通りに笑みを浮かべてみせて。
オルテンシア
「突然、ごめんなさい。……よく来てくれたわね」
エルミニオ
「約束してたんだから、当然だろ」 扉を閉めると、用意されていた椅子を引いて 腰かける
オルテンシア
「……そうね」 伏し目がちに答え、少年の目をひたと右の目で見つめる。
首から提げられたグレンダールの聖印に手を触れ、深く息を吸い込んでから口を開く。
「今から話すことは、国と、グレンダール神殿、冒険者ギルド……それぞれが周知のこと」
「その上で“みだりに口外すべからず”と厳命されている内容になるわ」
エルミニオ
「……」 珍しく静かにオルテンシアの言葉を聞いていたが、
その説明に、彼女の様子にも納得が行った様に瞳を瞬かせた。
「ああ、わかった」 応える様に言うと、促す様に確りと頷いた。
オルテンシア
彼女の王国内での立場はひどく危うい。言外に、もし少年がその内容を吹聴して回れば彼女の破滅を齎しかねないものだろうということは想像がつくだろう。
エルミニオ
それを聞いてなお少年は悩む事なく、“ああ”、と答えた。普段と変わらない返答と、普段と違わない約束でオルテンシアへと返していた。
オルテンシア
「……今から、15,6年前のことになるわ」 目を閉じ、記憶をたどるようにしつつ、そう切り出した。
「その頃、私はまだ蛮族たちの中に居た。純血のバジリスクだった父の下に」
「父は蛮族の中でも変わり者だったわ。なり損ない(ウィークリング)に偏見を持つどころか、喜んで受け入れたの」
「理由は、純血のバジリスクが持つ変身能力の欠如。父は自分たち(バジリスク)の醜い化け物の姿を酷く嫌っていたの。だから、人の姿だけを持って生まれた私を娘として扱った」
「蛮族の社会ではこれは異例の扱いよ。私がそれが特別なことだったと思い知ったのは」
「父に捨てられた時のことだった」
エルミニオ
「……棄てられた?」
オルテンシア
「ええ、私が父の期待を裏切ったから」
エルミニオ
む、と眉を顰めつつ、オルテンシアの話を聞く姿勢を見せる。
オルテンシア
「その時になるまで、私は自分の生まれで不自由を感じたことがなかったわ。父は私に学びの機械を与えてくれたし、いずれは私に自分の跡を継がせる気だとまで言っていたくらいにね」
機会だわ
エルミニオ
「……なんだよ、その時って」
オルテンシア
「私は父の期待に応えようと努力したわ。今思うとそれ自体がもう蛮族らしくなかったのかもしれないけれど」
「私が15になった時、父は私にこう言ったわ。『お前に配下と狩場を与える。見事率いて思うままに蹂躙してみよ』とね」
エルミニオ
静かに話を聞きながら、エルミニオはオルテンシアの瞳をじっと見つめている。
オルテンシア
「成人祝い、それから、通過儀礼だったんでしょうね」
エルミニオ
話に聞こえる父の動きに不満こそ持っていそうだが、オルタンシアを威圧しようとする色はない。
オルテンシア
「私は与えられた部下を連れて狩場に向かったわ」
「…………私達に搾取されるために生まれた、弱く、愚かな人族たちの村へ
エルミニオ
「……」 ぴり、と空気が張り詰める。
紫の瞳が一度伏せられて、ゆっくりと開かれると オルテンシアの瞳をじっと見つめ直す。
オルテンシア
普段の彼女なら絶対に口にしない言葉。それを口にするのが今、どれだけ苦痛なのか、その痛ましい表情と絞り出すような声音から伝わってくる。
エルミニオ
「……大丈夫だ」 続いて開かれた口から出た言葉は、落ち着け、と続けられた。
オルテンシア
――その頃の私は、本当に心からそう思っていたの。知らなかったから」
エルミニオ
「ちゃんと聞いてる。……ゆっくりでいい」 頷きつつ、続いた言葉に耳を傾ける。
オルテンシア
少年のまなざしに耐えかねたのか、付け足すようにそう言った。その言葉にも罪悪感を覚えているのか、口調は弱弱しい。
「……村はそう大きくはなかったけれど、丈夫な柵と塀に守られ、見張りをきちんと立てていた。私はこれが父の後継者であることを知らしめる試験だと思っていたから、最善を尽くすことにした」
「襲撃を速やかに、効率的に行うために、事前に偵察に向かうことにしたの」
「私は邪眼を隠して、部下のオーガは人に化けさせて、旅人を装って村を訪ねた」
「……私の家には人族の奴隷もいたから、人間と会ったのは初めてのことじゃなかったわ」
「でも、対等の立場で人間と接したのはそれが初めてのことだった」
エルミニオ
「……、そっか。どんな奴だったんだ?」
オルテンシア
「彼らは私に怯えた目も、追従の笑みも向けなかった」
「父娘で旅をしている行商なんて嘘を容易く信じて、旅の苦労を労ってくれたり」
「宿では頼んでもいないのに果物をくれたり、」
「宿屋のうちの男の子は、私に村を案内してくれたわ」
「友達も紹介されたわ、それから秘密の隠れ家も」
「……元気で、ちょっと強引なところもあって、すこし、貴方に似ていたかも」
エルミニオ
「俺ぇ?」 聞けば、自分を指差して首を傾げた。
「強引な所は無いだろが」 ・3・)
オルテンシア
「そう、今の貴方よりも4、5歳下だったと思うけど」
「小さな村だったから、外から来た私が物珍しかったんでしょうね」
「滞在している間は何かと会いに来てくれたわ」
エルミニオ
「……、仲、良かったんだな」
エルミニオ
と、そろそろ言って来なければ
ちょっとここからは反応がなくなる!
オルテンシア
あい
オルテンシア
「ええ……最初は人間のくせになんて不遜なんだろうって、内心、腹立たしく思っていたのに」
「たった一日、二日、接しただけだったのに」
「私はもう、彼らが搾取される為に生まれてきた家畜なんかじゃないって、そう感じてしまったの」
「その村は決して豊かじゃなかった。着ているものは粗末だったし、人も家畜も痩せていた。朝から晩まで泥だらけになって働いて、夜はかがり火を焚いて塀の向こうの暗闇を怯えたように見張っていた」
「近くの村や町、街道の様子をしきりに聞かれたわ……皆、今の生活が、平和がどんなに危ういものか、分かっていたのね」
「私は……そんな事、考えたこともなかった。私を脅かすものはいなかったし、父に従っていれば安全で快適だったから」
「でも、そこに暮らしていた人間たちは、私が知る奴隷たちとは全く違う表情をしていた……」
「皆、明日をより幸せに暮らせるように、考えて、学んで、懸命に生きているように見えた」
「それが家畜なんかじゃない、人間の本来の姿なんだって、知ってしまったの」
「……自分とそう変わらない姿をした者たちを、どうして、それまで当たり前のように踏みつけにして生きて来れたんでしょうね……」
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オルテンシアが入室しました
オルテンシア
ここからは家テンシア
オルテンシア
自嘲というには苛烈な、気付きを得る前の自分に対する激しい憤りを感じさせる表情を覗かせる。
「……滞在(ていさつ)を終えて、私は部下を連れて村を発った。見送りに来てくれたあの子に、絶対にまた来いって言われて……何も言えなかった」
「……私は配下の妖魔たちを待たせていた場所に戻って、略奪に向かう時を心から待ち望む彼らを恐ろしい、と思った」
「私が命令を下せば、彼らはあの人達を狩り立て、育んでできたものを深く考えもせずに炎の中に投げ入れる。私が与えられた権限(もの)はそういう暴力(もの)だったんだって、その時はじめて実感出来たんでしょうね」
「……父の期待を裏切ることは恐ろしかった。でも……それ以上に、私がそんな彼らと同類(ばんぞく)なんだってことが、何より恐ろしかった……」
両手で自分を抱き締め,
自身の肩に爪を突き立て、震える。
オルテンシア
ちょっときゅうけい
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BGMを変更 by オルテンシア
アカツキワイナリー60%
エルミニオ
がたん、と席を立つ音が響いた数瞬後、
オルテンシアの両の手首を身体から引き剥がす様に掴むと、そのまま背凭れに身体を押し付けさせる。
肩口に突き立てられていた爪から指先へと滴り落ちる血などまるで気にする事も無く、
「……言いたい事は、山ほどあるぜ。でも、今は一言だけだ」
「自分を傷付けるのだけはやめろ。……いいな」
言い切ると、確認を取る様にオルテンシアの瞳を覗き込んだ。
オルテンシア
「!?」 突然、席を立って近付いてきた少年に反応が遅れ、椅子に押し付けられる。
遅れて自分の爪に付着した血液が彼の指先を汚すのを目にして、瞳を大きく見開き、ヒッと息を呑んだ。
「だ、だめ、駄目……っ、は、離れて……ち、血が、」
見たこともないくらいに動揺し、覗き込んだ瞳には怯えの色が浮かんでいる。
その怯えは少年に対するものではない。視線は彼の指先に付着した自身の血に向けられている。
彼女が何よりも恐れ、嫌っているのは他ならぬ自分自身なのだろう。
だからこそ、自分が傷つくことも虐げられることも厭わない。当然のものとして受け入れる。
「お、お願い、早く……私の血を落として!……あ、あなたまで汚れてしまう……っ」
エルミニオ
オルテンシアから返ってきた反応は、よりその表情を曇らせた。
朱い毒の血が、手甲を付けていない少年の指を灼く。穢れてしまうと声をあげたオルテンシアが恐れたものは、既に現実になっていた。
紫の瞳は確りとオルテンシアの怯えた瞳を見つめて、自身の指を己の頬に寄せていく。
「今まで、色々言ったよな。種族だけで、とか、持ってる力だけで、とか」
オルテンシア
「あぁ……っ」 付着した毒血は僅か、しかし、自身の血が人を傷つけたという事実に打ちのめされ、力ない声をあげた
エルミニオ
「でもそんなもん全部関係なくて、どう生きてどう使うかだ、とも言った。……そうだよな」
オルテンシア
グレンダールより奇跡を授かり、その身を盾に人の守り手たらんとする姿がない。怯え切った瞳で、少年の指が向かう先を追いかけるばかりだ。
エルミニオ
問うた言葉にも、向けた視線にも返って来るものがないと理解すると、血液が付着していない方の手で、オルテンシアの肩を掴む。
「今は、俺を見ろ」 ぐい、と力を込めたその腕は力強く、瞳はオルテンシアをじっと見つめる。
オルテンシア
「……っ」 びくりと身を竦ませ、見ろ、という言葉に反応して紫の瞳を見つめた。
エルミニオ
「よし」 ふんす、と息を吐いて その手の力を緩める
「質問、聞こえてたか? ……もう一回言うか?」
オルテンシア
「質、問……」
「…………私が、この血を、この命を、人を護る為に使おうと思ったのは」
「……償いの為よ。 だからってM赦されるなんて思ってもいない……」
エルミニオ
「ちげーよ」 苦笑して
「生まれとか持ってる力は関係なくて、どう生きるか、どう使うかが大事だって、前に言ったよな? って聞いたんだ」
オルテンシア
「……だから、それは、私の命の使い道を」
エルミニオ
「使い道なんて言ってる時点で、なーんも解ってないだろが」
「お前の生まれが何だろうと、お前の血が毒だろうと、」
オルテンシア
「解っていないのは貴方の方よ! 私が取り返しのつかない事をしたって、もう分かるでしょう!」
エルミニオ
「お前の生き方も、力の使い方も、どこも汚くなんかないって言ってんだよ」
オルテンシア
「私は止められなかった! 助けようとして! でも、誰も、助けられなかった!!」
エルミニオ
「オルテンシアの他に誰も解ってくれない中で、ガキだったお前に何が出来たよ」
オルテンシア
「後で何人助けたって、無かった事になんて出来る筈がないでしょ……っ」
エルミニオ
「それを仕方ないとは言わないし思ってない。けどな、出来ることには限りがあるって事は、俺はお前と同じくらい知ってるつもりだ」
「俺だって同じだ。リアンに流れて来て、保護して貰ってた村が魔神に襲われた時、」
「俺は恩人を護れなかったし、自分の身だって護れなかった。〈星の標(ここ)〉の奴らに助けて貰っただけだ」
「ああ、無かったことになんて出来ねえし、出来たとしてもそんなのはごめんだ」
オルテンシア
「……ッ」 消沈から一転、敵意すら籠った瞳で少年を睨み返して、己の罪深さを叫んでいた。その言葉が半ばで途切れる・
エルミニオ
「無かったことにしようなんて、そいつは逃げだ。見たくないものにフタして、その時を生きてた自分を否定してるだけだ」
「……キツいよな。悔しくて、苦しくて、今でも叫んで怒鳴って暴れたくなる」
オルテンシア
「……」俯き、唇を噛み締める。まさしく、今も過去の自分を否定し続けて生きているのだから
エルミニオ
「何も出来なかったくせに、何で自分だけ生きてんだよって、思うよな」
オルテンシア
「……そうよ。だから、この命はあの子(セシリー)や、他の同族(なかま)の為に使うって決めたの」
エルミニオ
自身の記憶を掘り起こし、紫の瞳が僅かに眩む。けれど、それも瞬きの後には再び定まった。
「でもなあ、オルテンシア。俺は、何も出来なかった後悔を、後悔のままにしてちゃいけねえと思う」 
オルテンシア
「私が何もしてこなかったと思うの……? 此処で認めて貰う為に、なんだってした」
エルミニオ
「お前がしてきた事を、俺は全部は知らない。だから、それを善いも悪いも言えやしないが、」
「だけど、“命の使い方”なんてものを決めて、捨て鉢みたいに生きるのは、絶対に違うと思う」
オルテンシア
「……それは、貴方が人間だから言えることよ」
エルミニオ
「じゃあ、何の為にそいつらは死んだんだ」
「そいつらが死んで、残ったものって何だ? ……残ったものはお前だ、お前は何になれる?」
「命の使い方を決める? ……違うだろ、お前がならなきゃいけないのは、これまでのお前に誇れるお前だろ」
オルテンシア
「……私から彼らに出来る事なんて、もうない。もし、彼らが不死者としてこの世に捉われていたとしたら……その時は」
その時は、どうするというのだろう。仇として彼らに討たれるか、捕らわれた魂を解き放つか。
エルミニオ
それぞれの手の力を抜いて、オルテンシアの両頬を両側から包む。血の付いた指先が付かない様に気を遣いながら、ぐいとその顔を持ち上げた。
「ある!」
オルテンシア
「どうして、そんな、こと」
エルミニオ
「死んで行った奴らに、後悔してる自分に誇れる生き方をしろ!」
「誰がどんなに泣いたって叫んだって、もう起きた事は変わりゃしないんだよ、過去ってのはもう手の届かねえ所に行っちまってんだ!」
「だったらどこを見るんだよ。今か? 未来(さき)か?」 どっちだ、と頬から手を放しながら問う。
オルテンシア
「……そんなもの、ただの独善だわ。自分に都合の良いように罪を無かったことにする事と同じ」
エルミニオ
「それでも善だ」 
オルテンシア
「私自身の未来(さき)なんて望んでいい筈がないでしょ! それをあの子達に託すことさえ許されないっていうの!?」
エルミニオ
「独善だろうが偽善だろうが、後悔しながら生きるよりずっとマシだ!」
「それが許されねえ奴なんざいねえ!」
未来を望む事を許されないものなどいないのだと吼えながら、少年は続ける。
「託すっていうのはな、ちゃんと生きた奴が、最後にするものだ」
「使い方を決めて、その時が来れば、なんて考えてる奴がする事じゃねえ」
オルテンシア
「……ちゃんと、か」
エルミニオ
「……」 深呼吸をすると、ゆっくりと頭を振った。 「悪い、あんまり説明するのが巧くねえから」
「納得できない所、教えてくれ。……あと、怒鳴っちまって悪かった」
オルテンシア
「ちゃんと人に生れて、誰も傷つけずに生きていけたら……そうしたら、」
「……ごめんなさい。貴方が言ってくれたこと、理解はできるの」
「でも、駄目なの」
エルミニオ
「……一個だけ、良いか?」
オルテンシア
「私はあの時からずっと……、……何?」
エルミニオ
「その生き方でさ」 向かいの椅子に座り直し、小さく息を吐いた。
「幸せだって思えそうか?」
オルテンシア
「……」
「……私は今、とても幸せよ。あの子が無事で居てくれ、貴方達にも出会えた。コーデックスの事も助けられて、本当に良かったわ」
「私達を否定しないでくれる人達も少しずつ増えていって」
「とても、幸せで……」
「そんな事、赦されないのに」
エルミニオ
じ、と少年の瞳はオルテンシアを見つめている。
オルテンシア
今、感じている幸福を語る時、確かに満たされた表情を浮かべていた。しかし、結局、そこに戻ってしまう。
とうとう、その真紅の瞳からとめどなく涙が溢れ出して嗚咽を堪えきれなくなった
エルミニオ
その様子に声を掛けるでもなく、けれど見放す訳でもなく
オルテンシアの苦悩に、何がかけられる言葉はないのかと思案する。
オルテンシア
「っ……、……。ごめんな、さい……」
「この後悔も、結局は私の独善……でも、これが私にはマシなの」
エルミニオ
「……何でだよ」 
オルテンシア
「あの村の事を覚えている人が他に居なかったから」
「……私、村の襲撃に失敗して、この傷をつけて帰った後……父に棄てられたの」左目の邪眼の下に泪の跡のように縦に走る傷痕を見せ
エルミニオ
「……、……」 
オルテンシア
「私を見限った父は、邪眼の力で私を像にした」
「目覚めたらこの国に居たわ。どういう経緯か分からないけれど、私は彫像として売られていたそうよ」
「あの村で私がしたことを告白したけれど、誰も知らなかった。何とか記録を辿ってもらって、それらしい場所を突き止めたけれど」
「もう、何も残っていなかった」
エルミニオ
オルテンシアの言葉の真意を探る様に、小さく唸り 訝しんだ
オルテンシア
「私がその事を忘れてしまったら、それこそ……」
「私が告白した内容は、限りなく不確かで、もう今更の出来事だった」
「罰、と言える程のものも与えられなかったわ」
「そんなの、あんまりじゃない……」
エルミニオ
「……あのな、オルテンシア」
「忘れろ、なんて言ってないぜ、俺は」
オルテンシア
ゴァン
エルミニオ
クエ
エルミニオ
「もうあった事を、後悔したままにするなって言ってるんだ。受け止めて、誇れる様にしようぜ、ってな」
オルテンシア
クッタ
オルテンシア
「……無理よ、そんなの」
エルミニオ
「何でだよ?」
エルミニオ
クッタカ
オルテンシア
「分からない、から……」
エルミニオ
「いいか」 頭を掻いて
「分からない、は無理じゃねえ」
「そいつはいつかきっとわかる事だからな。……コーなんかが良い例じゃねえかな。多分、ちょっとずつ色んなものを解って行ってる途中だろ」
「そんで出来ない、のも無理じゃねえ。そいつは、“今は”出来ない、ってだけだからだ。出来るようになった事なんて、いくらでもあるよな」
オルテンシア
「……」
エルミニオ
「だから、今はそれでいい」
「今すぐ変えろなんて言わねえよ。すぐに変えられるもんなんて、多くないんだからさ」
オルテンシア
「……それでも、変われと言うのね」
エルミニオ
「俺はそうなるべきだと思ってるし、」
「そうなって欲しいって、思ってるんだぜ」
オルテンシア
「やっぱり」
「……強引な人じゃない、貴方も」 泣き腫らした跡の残る瞳を困ったような笑みの形にして
エルミニオ
「まあ、な」 苦笑して。 「……自分に出来ないって思った時は、」
「お前を信じた俺を信じて、もうちょっと踏ん張ってみてくれ。一朝一夕にできる事じゃないし、楽な事でも、ないけどさ」 
オルテンシア
「無鉄砲で、しかも、無責任」
エルミニオ
「……」 つ、つづいた
オルテンシア
「そこまで踏み込んでおいて、踏ん張れ、でおしまい……?」 少し恨めしそうな目を向け
エルミニオ
「ん? ……ってーと?」
オルテンシア
「……冗談よ、ただ助けて貰おうだなんて思っていないから」
エルミニオ
「おいおい」 両手を頭に回すと、朗かに微笑んだ。
「助けるのは当然だろ、仲間なんだから」
オルテンシア
「………」視線の湿度が上がった
エルミニオ
こわい
オルテンシア
「ここまで踏み込んでおいて、そう、仲間……」
エルミニオ
「……?? どういう意味だよ?」
オルテンシア
「きっと、貴方にはこのくらい、特別な事でも何でもないんでしょうね」
エルミニオ
「そりゃあ、仲間が泣いてたら」
「どこにいようが、助けに行くのが当然だろ」
オルテンシア
「……分かっていたことだけど、ええ」
「………」無言でエルミニオの手を取る。自分の血が付着したその指をじっと見つめて
エルミニオ
「……、なんだよ。もう乾いたから痛んでないぜ?」
オルテンシア
「炎武帝よ、浄火の言祝ぎを与え給え」 治癒の奇跡を願った
「……跡が残ったどうするの」
エルミニオ
「そうしたら、俺もお前達が引いてる線のそっち側に行けるかな」
オルテンシア
乾いた血の付着した指を自分の口元へ持っていって    口に含んで歯を立てた。
血が出る程ではないが、跡が少し残る程度には痛いだろう。
エルミニオ
――っ、て」
「……何だよ、突然。どうした……?」
オルテンシア
そして、口内で舌が指を這い、乾いた血の跡をこそぎ取る感触。
「ん……――」唾液で汚した指を解放してやり、立ち上がった。
エルミニオ
――、……」 困惑は混乱へ変わり、
立ち上がったオルテンシアを、目を白黒させながら見上げた。
エルミニオ
ゴァン
オルテンシア
「さあ? 少し、跡を残してあげたくなって」
オルテンシア
クェ
オルテンシア
「……私に(みらい)を望めって云うのなら、もっと深い跡を残してやりたくなるかもね」
エルミニオ
「……、跡、って言われてもな……」 まじまじ。
エルミニオ
クッタ
オルテンシア
クッタカ
オルテンシア
「私からの用件はここまで。約束、これで果たせたかしら」
エルミニオ
おう、とまだ困惑が続く様子で返事をして、
「全部、吐き出せたのか?」
オルテンシア
「……まだ、って言ったら?」
エルミニオ
「そりゃ、聴くさ」
オルテンシア
「一晩でも?」
エルミニオ
「神殿の方で怒られないなら? ……まあ、〈星の標〉なら大丈夫だろうけど」
オルテンシア
「……」はぁ、と溜息を吐いて
「嘘よ、ほとんど、吐き出させて貰ったわ。ありがとう」
エルミニオ
「ん。なら良いんだ」
「何か食ってくか?」
さっきカウンターにヨハンの奴がいたぜ。
オルテンシア
「……ちょっと今は他の人と顔を合わせられないから」
「先に帰らせて貰うわね」
エルミニオ
「……ん。わかった」 頷くと、自分も席を立った。
オルテンシア
「それじゃあ、また、ね」
そう言って部屋を出て行った。ドアが開いて、廊下の空気が流れ込んでくるとはじめてわかった事がある。
彼女は香水をつけていたのだろう。その仄かな香りが外気によって薄まって、霧散していく。
エルミニオ
「またな」 彼女を見送って、じんと痛みの残る指先を緩く払いつつ、
慣れない匂いを覚えながら、カウンターへと向かい ヨハンに食事を頼むのだった。
エルミニオ
コンナトコカ
オルテンシア
ヨハンには何故か拳骨を貰います
>ミニオ
エルミニオ
まあ
2人で話してたと思ったら女の子が泣いて出て来たら
そらそうよ
オルテンシア
よし、こんなとこね、お付き合いありがとうございました
エルミニオ
ではログをしまうわよ!
お付き合いありがとうございました!日をわけてしまってもうしわけねえ……

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