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重ねるもの

20220407_2

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が入室しました






 
――王都イルスファール、喫茶店〈ペルティカ〉。
遠い言葉で“とまり木”を意味するその喫茶店は、王都北部、キルヒア神殿からほど近い場所にある。
大通りからひとつ逸れた通りは程よく人も少なく、けれど決して閑散とはしていない。
人が多過ぎず、居なさ過ぎもしない。そんな穏やかな場所にあって、
店主のペルティカと名乗るエルフの女性が開いているその喫茶店には、この日ひとりの青年が呼び出されていた。
店の入口にあるプレートは“close”と記された面が表になっていて、
ペルティカと青年の他のみが、店内のテーブルについていた。
 
カーティス
――それで」 テーブルに腰を押し付けている青年は、依頼で王都を発ち、戻ってきた足でそのままやってきていた。
荷物を置き、湯浴みを済ませた後に、受けていた呼び出しに応じてやってきた所だった。
「何だよ、改まって用事って?」 二人ならば遠慮する必要も無いと知っているのか、慣れた様子で煙草に火を点けると、それを唇に咥えた。
ペルティカ
ペルティカは、青年――カーティスのその様子に小さく息を吐くと、互いの前に並べていたカップをひとつ手に取った。
「用事というより、お説教よ、今日のは」 言って、小さく肩を竦めた。――相対している青年は訝しんでいたけれど、ペルティカはお構いなしに続ける。
「自覚のあるなしも、全部あとから聞いてあげる。だけどカート、貴方――」 
「まだ、エルの事を引き摺っているのね」
カーティス
飛び出た言葉に、心臓が跳ねる。眼に焼き付いた光景(じごく)と、手にこべり付いた感触は、どうやらまだ確りと記憶の中にあったらしい。
何とか深呼吸をして、紅茶を喉に流し込むと、ペルティカを見つめ――否、睥睨した。
――何が、」 言いたい。そう言葉を連ねるよりも早く、普段は柔らかなペルティカの言葉が、鋭さを増してカーティスへと返って来る。
ペルティカ
「似てるから、あの子――アストレアちゃんのお世話を買ってあげてるんでしょう?」 
頬杖をついて、ペルティカはカーティスを見つめる。怒りに揺れるカーティスのそれとは異なる、穏やかな海の様に優しいそれを灯して。
「あなたがエルにそうされた様に、」
「エルがあなたにそうした様に。……違う?」
カーティス
カーティスは答えない。
ペルティカ
その反応は知っている。彼は幼い頃から、こういった――自分の感情を隠すような事について、嘘を重ねるには準備が必要だった。
それは罪悪感でもあり、自己嫌悪もあり、そしてそれでもなおそれを吐かなければいけないからと、自分に蓋をする準備だ。
――何度も、もうやめろと言ったのに。心中で溜息を吐いて、ペルティカは続ける。
「ばかね。……嘘と一緒に、本当の事まで全部飲み込んじゃいけないって言ったでしょう?」
「それだけじゃない事も、私が気付けないと思っているの?」
カーティス
「……どっちにしたって、」 緩く頭を振って。 「何でお前から言われなきゃならないんだ、んな事」 
ペルティカ
「あなたが人を困らせて、もしかしたら傷付けていると思ったから、よ」
「アストレアちゃん本人から聞いたのよ。……あなたが、」
「自分を通して誰かを見ている気がするんだ、ってね」 
「…私が森に行った時も、そう見えたもの。もっと近くにいるあなたからは、もっと見えていたんじゃないかしら」
カーティス
ふい、と顔を背けて、がしがしと頭を掻いた。
――煙草は、気付けばもう火が消えていた。
ペルティカ
その様子に、もう一度溜息を吐いて。
「あなた、だから手伝ってあげていたの?」
「あなたは、誰を見ているの? ……もし、それがエルなら、」
――……」 ふふ、と微笑んで。 カーティスの表情を見て、言葉を切った。
カーティス
「……」 カーティスは、小さく俯きながら右手で覆ったまま、緩く頭を振る。
少し呻いた後、口を開いて――
ペルティカ
「用事、出来た?」 その口から出る言葉も、その言葉を出す為に辿った思考も、全て理解した様に ペルティカは言う
ペルティカは、知っている。未だ手のかかる“子”ではあるものの、
ただ、歩く道筋まで手を引いてやる事はない相手だと。
カーティス
「ああ。緊急だ」 吐き出した表情は、酷く曇っている。
灯っている色は、自分への苛立ちと、アストレアへの申し訳なさと
それから、今は亡い仲間への悔恨。自分の中で彼女を正しく死なせてやれなかった事への後悔。
ペルティカ
誰かを透かして見ていた事に対して、アストレアがそれを残念に思うと語った言葉も、
抱えている諦観も、自分の口から言う事ではない。
カーティス
「また来る」 料金を置いて、席を立つと
「……、」 悪い、と吐き出そうとした言葉は飲み込んだ。それは、先に伝えなければならない相手がいる。
ペルティカの瞳を一瞥すれば、
ペルティカ
言わずともわかるから、と緩く目を細められて、
「いってらっしゃい」 それだけ言って、席を立ったカーティスを見送った。
りん、とベルが鳴って、
青年は喫茶店を後にする。
ペルティカ
「……成長は、していると思うんだけれどねえ」 小さく音を鳴らして、壁にかけられている剣――
「“泣き虫”から“弱虫”になっちゃったかも、なんて」 細身のレイピアを見上げると、小さく息を吐いた。
 
 
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カーティスが入室しました
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アストレアが入室しました
アストレア
お待たせ
カーティス
いやいや、こちらこそ
アストレア
よろしくお願いします
 
 
 
 
 
アストレア
時間帯の指定はあるかな
カーティス
ペルティカと話したのが午前中想定だったから、
そのまま駆けて行っている具合だから 午前~正午くらいになるかな
アストレア
その場合は部屋に居ないかもしれないな
まあ偶然いる、として 描写はしよう
カーティス
居なかったらまた改めて時間を置いて来ると思う
アストレア神殿とミィルズ神殿を直線で結んだ中間値辺りにある宿
さして特徴もなく、長期滞在サービスが売り手で、冒険者の国とも言えるイルスファールにおいてはそこまで珍しくもない場所だ
アストレア
アステリアで
カーティス
うむ
2階建ての家屋の2階、右から3つ目の部屋。そこが少女の部屋で ベランダがついているのが彼女には嬉しかった
アストレア
午前中に店に顔を出し、仕事は取ることが出来なかったので、そのまま日用品を買い出して昼食を済ませると、戻ってきて一息ついたところだ
ベッドに身体を投げ出すと ぎしり、と音を立てて
最近、働き詰めだったのもあって、若干の疲れがある。そして疲れている時は、あまり考えたくないことに思考が行ってしまうものだ
敢えて考えないようにしていた事の蓋が開いて
「──、マリア」 此処に居てくれたら、君は話を聞いてくれただろうか
アストレア
こんなところでどうだろう
――その思考を止める様に、階段をどたどたと上って来る何者かの足音が響いて来て、
駆けてきたのか、荒く疲れた息遣いを連れたその足音は、アストレアの部屋の前までやってくると止まった。
いくつかした後、呼吸を飲み込んだのか、すっとその音が収まって。入れ替わりに、ノックの音が転がって来る。
アストレア
「……、」 剣の柄に触れて
身体を固くすると起こして
カーティス
「っ、……、カーティスだ、」 平静を装っているものの、切れた息までは隠せない。
落ち着くまで待てば良かったが、今はそんな事を考えている余裕はなかった。もう一つ息を吸い込んで、
アストレア
「──、」 おや、と思い ベッドを離れると
ドアチェーンを繋いで扉をわずかに開けると伺うようにする
カーティス
「アスト、いるか?」 そう続けると、廊下の壁に背を預けて 整える様に息を吐いた。
アストレア
「……すごい剣幕だな。どうかしたのか?」
一度閉じてチェーンを外すと 改めて外に出てくる
カーティス
「話がある、」 ふう、と大きく息を吐いて、
「時間を、くれ。……頼む」
アストレア
鍵をかけると 「構わないよ。外でいいかな」
カーティス
こくりと頷くと、からからに乾いた喉を震わせて 来てくれ、と歩を進めた。
アストレア
そのまま黒いシャツと黒いスカート、黒のタイツにショートブーツのままで 帯剣だけはしてカーティスに続く
息も絶え絶えといった様子のカーティスは、王都の事はよくよく知っているのか 
アストレアの宿から裏道を歩きながら、王都内を流れる川辺の近くにある小さな公園へと歩を進めて行った。
川を望む公園にはさして遊具もなく、また遊べる広さもそうはない。精々ベンチが設置されている程度で、
訪れるものも、そう多くはない。――キルヒア神殿から近くの公園と、似た雰囲気を持っている。
カーティス
公園に着く頃には既に呼吸も整っていて、普段とは違って煙草も咥えてもいない。
アストレア
「──こんなところがあったんだな」
カーティス
それに加えて、 「……ああ。まあ、な」 普段からは考えられない程、歯切れの悪い言葉ばかりを返している。
ベンチの上を手で払ってから、座ってくれ、と促して 夏日とも言える陽気の下、アストレアを見遣った。
アストレア
「──、」 その様子で、いくらか事情は察して
「…‥そうさせてもらう」 ベンチに腰掛けて 話が切り出されるのを待つ
カーティス
彼女がベンチに腰を下ろしたのを見て、少しだけ置いて。ゆっくりと口を開いた。
「……ペルティカから聞いた。俺が、アストを悩ませている事」 じ、と瞳を見遣って。
「その事について、話をさせて欲しい。……その為に、時間を貰った」
アストレア
「──、先に1つ、いいかい?」
カーティスを見上げて 小さく笑みを作る
カーティス
「ああ、……」 聞けば、頷きを返して。
作られた笑みには、じわりと罪悪感が顔を覗かせる。
アストレア
「私はそれで構わないと思ってる。……、それは前提として、話を聞こうと思うよ」
カーティス
「……俺が言う言葉じゃないが、」
「理由は、聞いてもいいか」
アストレア
「……慣れているから、かな」
「神輿として、王女として、レンドリフトの象徴として、」
「そういった自分を通して別のものを見る視線には、慣れているから」
「だから……構わないんだ」
カーティス
その返答に瞳を閉じ、右拳を握り込む。それを無造作に持ち上げると、
次の瞬間には、鈍い音――骨と骨がぶつかり合う音が、めしり、と鈍く響いた。
アストレア
「……っ」
カーティス
右拳で額を打つと、ゆっくりとその手を放して 腫れた額をそのままに
「解った。答えてくれて、ありがとうな」 
アストレア
「……何をしているんだ」
「ヒューレよ……癒しの奇蹟を此処に」
カーティス
「大馬鹿野郎を殴っただけだ」 良い、と手で示して
アストレア
印を結んで祈りを捧げようとして
カーティス
「これは、俺が持ってなきゃいけないものだ。だから、良い」
アストレア
「………、わかった」
カーティス
アストレアの隣に腰掛ける事はせずに、正面に立って
「……死んだ仲間を、アストを通して見てた。それは、確かだ」 ぽつぽつと切り出すと、言葉を重ねていく。
アストレア
「……、」 心配そうな色を表情に僅かに乗せて、カーティスに相槌を打つ
カーティス
「今も生きていたら、……なんて、」 ぐ、と拳を振り上げて もう一度打つ
「考えて、やがったんだ、」 こいつは、と続けて 白い肌にその痕が色濃く残った。
アストレア
「や、やめてくれカーティス」
「……それは良くない」
カーティス
どれも、良くねえ」
「アストを連れ出す時、王都を見て回った時、」
「俺が吐いた言葉は、――アストが受け取ってくれていた言葉は、じゃあ、何だったんだ」
アストレア
「………」
カーティス
「俺が見ていた相手がアストじゃないなら、本当に、どこまで、」
「……あの日に、アストとマリアベルに言った言葉を、どこまで踏み躙れば気が済むんだ」
ぐっと拳を握って、深呼吸をひとつして。ゆっくりと瞳を開いた。
アストレア
「……、それでも君が自分を傷つけるところを見たくはないよ」
カーティス
その言葉には答えは口にせずに、じっとアストレアを見据えて、
アストレア
「………」 赤い瞳がカーティスを見つめて
カーティス
「本当に、すまなかった。俺は、……そういうことを、していた」 ぐ、と腰を折って、深く、深く頭を下げる。
アストレア
「………、構わない。初めてのことではないし……、ただ、」
「ただ、そうだな……気が付きたくはなかったかな。気が付かずに居られたら、それが一番だったかもしれない」
「それが少し………残念だったかな」
カーティス
一つ一つを受け止めて、ぐ、と唇を噛んで。……逡巡の後に口を開く。
「……それで、全部、か?」 その問いを投げ掛ける資格が自分にない事は十二分に解っていて、けれど、言葉を選ぶ様に紡ぐアストレアの様子に、問いが唇を擦り抜けた。
アストレア
「……うん」
「全部さ」
カーティス
じ、とアストレアの瞳を見遣って、少しだけ目を細める。
アストレア
「──、何かな」 カーティスを見つめ返して 
カーティス
「……俺なら、」
「それだけじゃ、済まねえと思ったんだ」
「腹が立つとか、呆れるとか、な」
アストレア
「………、腹が立つも、呆れるも」
「私には、元々ない権利で、……そこまで他人を家族やマリアでさえも、」
「期待してないんだ。きっと」
「私は‥‥…とんでもなく、冷たい人間何だと思うよ」
なんだと
寂しい笑みを作ると 更に重ねて
「自分が諦めれば、それで済むのだからね」
カーティス
「……、」 返したい言葉はいくつも喉元を突いているのに、
それを、彼女を視なかった自分に伝える権利があるのか。――自明だ。ある筈もない。
「それは、“王族”のアストレア、だろう」 なんて無責任で、勝手なのか。自覚しながら、続ける。
「諦めて、それで済むのは、これまでのアストだ」 だが、無責任だと言うのならば、それはきっと、
「今の、――“冒険者”のアストレアは、そうじゃない筈だ」 再び彼女を視ようとしない事だ。重ねた過去(おもいで)だけを視つめる事だ。
アストレア
「……、どうかな、」
「すぐに戻ってしまうから……、私には難しいかもしれない」
カーティス
「戻る……?」
アストレア
「カーティスの言う。王族のアストレアに」
「だから……切り離すのはきっと出来ないんだ」
「過去を過去として受け止めて背負っていくしかない……その過程で、誰かに誰かを重ねることはあるかもしれないと、思うよ」
カーティス
「それは、そうさせる馬鹿野郎がいたからだろう。……諦める事を、選ばざるを得ない状況にしているからだろう」
アストレア
「だから、カーティスに怒れないし、呆れることは出来ない」
カーティス
「……だから、なんて諦めさせる奴が、居たからだ」
アストレア
「……、」
カーティス
「違うか、アスト」
アストレア
「……どうだろうな、私には分からない」
「ただ、怒るとか呆れるという感情が、今のところ沸かないというのが、事実だよ」
カーティス
「……そうか」 頷いて、小さく息を吐く。
アストレア
ちょっとお茶もってくるね
カーティス
いってらっしゃーい
アストレア
ただいま
カーティス
おかえり
アストレア
「……許すよ。カーティスを許すから」 そ、と握り拳に手を重ねて
「それ以上、自分を責めて、傷つけるのは……やめて欲しいな」
カーティス
「……情けねえ、話だ。勝手に重ねて、それを気遣われてんだから」 重ねられた手には、身動ぎせずに、そう零して。
アストレア
「……さっきも言ったけれど、」
「私だってマリアに似た人を見つけてしまったら、同じことをしてしまうかもしれない」
「……、誰にだって起こり得ることなんだ、きっと」
「それだけ……大事な相手だったんだろう?」
カーティス
「だからって、それが良いって事にはならないんだ。……ああ」
「大事で、……特別な家族だったよ」 小さく肩が落ちて。
アストレア
「良ければ……聞かせてくれないか、エルシィのこと」
カーティス
「……姉貴だ。っても、血の繋がりがあった訳じゃない」
「為人は、……アストに似てる、かな」
アストレア
隣の席を促すようにして手を引いた
「ペルティカからも聞いたよ」 頷いて
カーティス
手を引かれれば、少し躊躇った様にして ゆっくりと、隣に腰を下ろす。
「……俺の生き方は、エルに教わった。剣の握り方も、食って行く為の技術も」
「凄い人だった、と思う。……触れちまったら折れそうな癖に、とんでもなく腕が立って」
「頭の回転が速くて、優しくて。……それで、賢かったんだろうな」
「どうしたらいいかを、いつでも判断できる人だった」
アストレア
「………、」 相槌を打って
カーティス
「……ペルティカから聞いたかもしれないが、ガキの頃、よく泣くガキだったんだ」
アストレア
「……うん」 今も、泣いてる。きっと、心のなかで
カーティス
「誰かの為にってした事が、上手く行かないって泣いてる時はよく言われた。“カーティスは人を思う事が出来る人だから、そうできるんだ”、とかな」
アストレア
「……そうだね」
カーティス
「ただ情けなくて泣いてるだけなのにな。……今だって、」
「重ねられてたアストの事を思ってる、だなんて言えねえからな」 
アストレア
「……そんな事はないよ。大丈夫」
「続けてくれるか」
カーティス
頷いて 「……あとは、何が聞きたい?」
アストレア
「………いや、これ以上はいいよ」
カーティス
「どうした、急に」
アストレア
「……、」 少し握りこぶしを作って
「これ以上聞くときっと、」
「最期まで、言及させてしまうと思ったから」
「もう、良いんだ」
カーティス
「……、なら、」
「付き合ってくれるか。……最期まで、俺の整理の為に」
アストレア
「……いいのかい?」
カーティス
「ああ。……情けない話だが、」
「もう、重ねるのは終わりにしたいんだ。……それは、アストにも、エルにも顔向け出来ない」
「このままじゃ、前に進めねえ、……と思う」
アストレア
「…‥わかったよ。一緒に、連れて行くから」
「聞かせて欲しい」
カーティス
頷いて、重ねられた手をこちらからも取って。
「色んな所に行った。仕事でも、仲間内でも。リアンのそこら中を回って、馬鹿して」
「……丁度、この時期くらいだったな」
「春が来て、これから暖まるなって時に、……下手を打っちまったんだ」
アストレア
「……、」 手を握る力を強めて
カーティス
「誰かが、って訳じゃない。……」 強まった力に、そう付け加えて
「……出くわした相手が、俺達の手に負える相手じゃなかったって、だけだ」
「引き返す事も出来たんだ。……なのに、見誤った」
「前に言ってたドワーフが崩れて、そのフォローにエルが入った。そのまま残ってりゃ全滅だったのは、どう見ても明らかだった」
「殿に、なんてものじゃねえ。囮にして、俺達は退いた。……すぐに立て直して、既に向かってきてた増援と合流して、また向かったんだ」
力を籠めるどころか、アストレアの手を握る力が少し弱まりつつ、
――エルは、起き上がらされてた」
アストレア
「……」 それに代わるように、握る力が込められる
カーティス
「死体を人形にされたんだ。その連中に」
アストレア
「……どんな奴らだったのかは、聞いてもいいだろうか」
カーティス
「その時に、増援と合わせて全員斬った筈だけどな、」
「……道化(ピエロ)の面を被ってる奴らだった、かな」
アストレア
「……そうか」
カーティス
「他にそんな連中を見た、なんて話は聞かねえし、」
「ガルバのおっさんからも、聞いた覚えはない。……だから、もう終わった話だ」
アストレア
「……」 頷いて
カーティス
「……」 息を吐いて、手を握り返し。
「最期は、俺が殺した」 
「見てられなかったんだ。……俺の知ってるエルの動きは、何一つなくて」
「剣も、立ち振る舞いも、表情も、」 「最期に見たのは、俺の知ってるエルとはかけ離れたもの、で」
「…………」 だからアストを見た時に。そう続けかけた言葉を、ぎゅっと飲み込んだ。
アストレア
「………、墓は何処にあるのかな」
カーティス
「……集合墓地で、寝てる」
アストレア
「じゃあ、」
「カーティスが連れているものは、どれだい?」
カーティス
「……剣と、」
「技術、それから」
「……エルは、宝飾が趣味だったんだ。だから、それも」
アストレア
「…見せてもらえるかな。宝飾品」
カーティス
「……、」 首元の細いチェーンを引っ張ると、
小さな剣を象ったオニキスのペンダントを、そっとアストレアに見せる。
瞳と同じ黒のペンダントが、光に照らされて ころん、と胸元で転がった。
アストレア
「……綺麗だね」 手にとって見てから頷くと 
「エルシィ、」 ペンダントに呼びかけるように呟いて
「私は君にはなれないけれど、……どうやら似ている巡り合せのようだから、」
「カーティスと、また一緒にいるよ」
「だから、見守っていて欲しい……あなたの弟を」
ヒューレ式の祈りを捧げると 黙祷して
「……ありがとう、カーティス」 それを終えると、そう呟いて、小さく笑みを作る
カーティス
「……、……」 アストレアの言葉に、小さく唇を噛んで 
ペンダントに触れるアストレアの邪魔にならないよう、ゆっくりと視線を逸らした。
唇は小さく震えていて、呼吸は確かに止められている。
アストレア
「聞かせてくれて、見せてくれて…ありがとう」
そっと、距離を取って座り直す
カーティス
「……、……礼を言うのは、俺だろ」
アストレア
「……、それから」
「心のなかで泣く必要はないよ。少なくとも、私の前では」
カーティス
「……それは、」
「王族の、か? それとも、冒険者の、か?」
アストレア
「君の姉に似ている、アストレアの言葉さ」
「立場とかじゃなくて、個人として。そう言っているんだよカーティス」
カーティス
「……、」 漸く振り向いた顔は、鼻先を赤くして 目尻に僅かばかりの涙を堪えていて
「……そうかい。ありがとう、な」
アストレア
「……よく、頑張ったね」
カーティス
「アストもだ。……残念だなんて思わせたのに、聞いてくれてありがとう」
アストレア
「きっとペルティカも、他の人も……君の行いを責めはしなかっただろうけど、」
「褒めることも、労ることもきっと、その時は出来なかっただろうから」
「エルシィの代わりに、君の頑張りを肯定するよ」
「‥…本当に、よく頑張ったね」
カーティス
「……、……」 ぐい、と右手で拭って。
「……もうひと頑張り、するさ」
アストレア
「……うん」
小さく頷くと 笑みを作って
カーティス
「今度は、」
「アストが諦めなくて良い様にな」
アストレア
「…うん」
「そうしてくれたら、嬉しいな」
カーティス
「任せてくれ、なんて今は言えねえ。……けど、」
「……今度こそ、約束する。諦めようだなんて、お前に二度と思わせねえ」
今度は自分からアストレアの手を取って、それをぎゅっと握り込んだ。
アストレア
「………、」 期待しても良いのかな、自分の中で問う声がする
「………、待ってる」 期待している、という言葉でも 大丈夫でもなく 口に出た言葉はそれで
自分でも口に出たのが少し驚いてしまって
「……、うん」
緩く手を離して 前を向いて 「たぶん、今出せるのは、きっとそういう言葉だ」
カーティス
「……、ああ」
「待っててくれ。もっと、違う言葉が出せるくらい、」
「アストの中から、諦観って奴を失くしてやる」
アストレア
「……一先ず暑いし」
「冷たいものを飲みに行こうか」
「ペルティカのところに」
立ち上がると 誘うように手を促して
「その前に、その傷は消していかないと」
カーティス
「……、」 手を取って、立ち上がり
「ああ。……ペルティカにも、礼を言わないとな」
アストレア
ヒューレに祈りを捧げると傷を癒して
カーティスを伴って喫茶店〈ペルティカ〉に向かうのだった
――当然のことながら、
〈ペルティカ〉に着いた後、カーティスがアストレアへ、そしてエルシィへしていた行いについて
彼女から説教があったが、それはアストレアの様子を見て途中で区切りを迎えて
その後はゆっくりと、三人で語らう時間を過ごしていった。
カーティス
ちょっと鈍くなってごめんね、こんな具合でいかがでしょうか
アストレア
良いと思う
お疲れ様でした
カーティス
お疲れ様でした。ログは追って伝えます
アストレア
では撤退します。お付き合いありがとう
また遊ぼう
カーティス
もちろん。
!SYSTEM
アストレアが退室しました
背景
BGM