冬国のリテラチュア 幕間 アーネスト、イスカ
20211127_0
- !SYSTEM
- イスカが入室しました
- !SYSTEM
- アーネストが入室しました
- アーネスト
- よいしょと。
- ご飯等々あれば随時教えてください。そんなにはかからない……筈!
- イスカ
- ほーい
- イメージありそうだし導入は任せてもいいかな?
- アーネスト
- 大丈夫でっす ざっくり導入にはなるけれど!
- イスカ
- ほい
- よろしくお願いします
- アーネスト
- よろしくお願いします
-
- 東方の集落にて謎の武装集団による住民の失踪事件が起きたと報せを受けたオリヴィア一行は、
- その調査を行うべく緊急の準備を整えると、一路東へと向かった。
- その道中では不自然な獣の遺体や、ヒトに対しての怯えを持っている狼などとの邂逅を果たしながらも、
- 一行は、集落のある場所へと到着する。
-
- 村人の気配のないそこに居たのは、数人の侍従を従えた少女だった。
- 一仕事を終えた所だという彼女――アリスと会話をする内、その本性の一端が現れる。
- 自身の服を汚した為と侍従の一人を殺害した彼女と対峙し、一行は交戦を開始した。
- “葉”と呼ばれる少女らを率いるアリスとの戦況が傾いた所で、カスパールという男が現れ
- これで手打ちにしようと提案し、カスパールは謎を残したままアリスを伴って一行の前から姿を消す。
-
- “庭”、〈奈落の剣〉、アングルシを覆う謎は重なるばかりであったが、
- 調査を終えた一行は、再び都へと移動を開始する。
- これは、その数日の内の一幕。
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-
- この日は酷く冷えていて、雪の勢いもとても強かった。
- 天候の影響もあってこれまでの一日の平均よりも距離が稼げないまま、日没が近付いて来る。
- 一つの小屋に全員が収まり、それぞれの小部屋で休憩を取る頃。
- イスカのもとに、黒髪と翡翠の瞳を持つ少年がやってくる。
- アーネスト
- その指には“銀の魔女”から渡された指輪が付けられており、今もその繋がりは失われていない。
- 表情を見なくとも、その心情は指輪を通してイスカへと滲んでいる。
- イスカ
- 火鉢とかあるのかな…
- アーネスト
- あっても……いいかも……
- アーネスト
- 指輪からは悔悟と罪悪感と、それに紛れて未だに仄暗いものが感じられる。
- 「――……イスカさん」 耳に届いたのは、少し掠れた声だ。恐る恐る発された声の続きはやってこない。
- イスカ
- イスカは火鉢のそばに腰を下ろし、脚絆や手のバンテージを解き、じんわりと伝わる熱で手足に血を巡らせている。
- 大部屋の暖炉から拝借した灰の中に、燃え木を埋めたものだ。焚火のように明るく暖かくはないが、それでもあるとないとでは大違いだった。
- 「………」 少女は、ふと、呼ばれたように顔を上げた。声がかかるより早く。
- それを裏付けるように、扉の向こうから弱く少年の声が響いて、「―――」 イスカは腰をあげた。
- キィ……と音を立てて扉が開く。
- アーネスト
- 所在無さげに揺れていた瞳が扉が開くよりも早く定まると、開かれた先に立つ少女を窺う様に、そこへ視線が置かれていた。
- イスカ
- 「アーネスト。……どうしたの?」 銀髪の少女は、訪問に驚いた様子もなく、静かに少年を見返す。廊下にかけられていたランプの明かりに照らされて、貫頭衣から覗く手足が生白く光るようだ。
- アーネスト
- 定めていた筈の瞳が、彼女の声を聞けば躊躇う様に揺れそうになって。
- 僅かに頭を振ってみせる。ロニと交わした言葉を思い返しながら、今度こそ確りと見遣る。
「……謝りたい事が、あって来ました」
- イスカ
- 「―――……」 少しの間。
- 「寒いでしょ。中に入って」
- 何を、とは聞かず、一歩下がるようにして、小部屋の中へと招く
- アーネスト
- こくりと頷きを返すと、ゆっくりと彼女が使用している部屋へと入る。
- リングを一つ撫でると息を吐く。言葉はこれまでの道中で探してきていたのに、いざ前にすれば散らかってしまうそれを搔き集める。
- イスカ
- 部屋の中に入ると、火鉢と、彼女の体温で外よりもいくらか暖かい。廊下の刺すような寒さに比べたら、ずっと過ごしやすいだろう。
- イスカ
- シルヴァを出してあげようと思ったけど狭すぎて断念した
- アーネスト
- 人と使ってる部屋でないなら……って思ったけど、シルヴァが窮屈に感じちゃう奴だ
- イスカ
- と思ったけど……ええか!
- アーネスト
- ええやで!
- アーネスト
- その温度に小さく息を吐き出した。――けれど、ここに来るまでも、確かな温もりは感じていたのだ。
- イスカ
- 部屋を占領するように身をよこたえているのは、銀狼シルヴァだ。狭い部屋にこうしていると、まるで大きな毛皮のベッドみたいだ。訪問者にもびくともせず、ただ耳だけがぴくぴくと動いた。
- イスカは火鉢のそば、シルヴァに寄りかかるようにして座り、アーネストにもそうするように目で促す。
- アーネスト
- 招かれたアーネストは、シルヴァの姿を見ても、やはり驚く事はなかった。彼女達は共に在るものであって、それが当然である事は既に理解している。
- 「……、……」 視線と指輪と、それぞれに促されれば、ゆっくりとシルヴァに近寄ろうとして、
- 「ここで、言いたい事があって」 彼女への罪悪感が先に立ち、歩が止まった。
- アーネスト
- おっとごめんなさいご飯!ばっといってきます!
- イスカ
- 「………?」 指輪を通じて、そして指輪を通じなくとも、アーネストの感情は伝わってくる。けれど、ふだんは、その内容までがはっきりと分かるわけではない。絵に例えれば、どこからでも色が分かるようなもので、その形は分からない。
- 「――謝られることなんて、わたしにはないけど……」
- 淡々と、涼やかな声。
- 本心だ。自分たちは――アーネストも勿論、やれる限りのことをやってきた。ここへ来て現れた、アリスとカスパールという名の謎の敵に対しても、ひとりも欠けずに切り抜けることができた。
- 「……何を…… そんなに、悔いているの?」
- アーネスト
- もどりましたーもうしわけない
- シルヴァ
- 銀狼は、少年と少女のやり取りにも、我関せずと言った風だ。
- イスカ
- おかえり
- アーネスト
- その場に立ったまま、イスカへとゆっくりと口を開く。
- 「この指輪は、相手の気持ちが伝わるもの、でもありますよね。勿論、全部が全部、じゃないけど」
- 言葉にしながら、ただ純粋な怒りと殺意をアリスへと向けていた事を思い返す。自分の感情は、自分だけのもの――では、なかったのに。
- シルヴァ
- 「………」
- アーネスト
- 「だから、……」 少なくとも、指輪を通して繋がっている間は。
- イスカ
- はめた指輪を撫で、アーネストを見て、ひとつ頷く。
- アーネスト
- 「あの時、アリスに、……僕は」 ぽつぽつと喋り出せば、一つ吐き出す度に表情が陰る。
- 「殺してやりたいって、思ったんです。……これまでの事も、先生の事も、オリヴィアさんの事も、アングルシの事も、」
- 「イスカさんと繋がってる事も、全部忘れて。……イスカさんにも、流れて行ってました、よね」 やがて俯きそうになって、それをまた何とか踏み止まる。
- イスカ
- これえっちなことを考えたら相手につたわるんだろうか
- アーネスト
- 伝わるんじゃないでしょうか(眼鏡クイッ)
- アーネスト
- 問いながら、イスカを覗き込む。
- イスカ
- 「……そういうものと分かって、みんな使ってる。謝りたかったのは、そんなコト?」 そう言ってから、思案気に目を伏せ、
- 「……あの子は、危険だった。あそこで止めなくちゃ、次はもっと厄介な敵になる。わたしたちは、手負いの獣を逃がしてしまった」
- 「ただ――」
- あの怒りと殺意の激しさは――
- 「――アーネスト。殺されたあの男は、あなたの知り合い?」
- 「あの村の人たちを、アーネストは知っていたの?」
- アーネスト
- 「そんな事じゃ、」 ないのだ。少なくとも、身を任せてしまえるほどの殺意を、誰かに、仲間に繋げてしまう事は。
- 「……、」 続いた問いには頭を振って。 「いえ、……見ず知らずの、人ですよ」
- イスカ
- こくり、と頷く。
- 「殺してやりたい――見知った者が傷つけられた時、そう思うのは不思議なコトじゃない」
- 「そうでなくても、義憤から、あの子に怒りを―― あの強さに、警戒を―― あるいは恐怖を抱くことも」
- 「でも、あの激しい殺意だけは……」 燃え盛る火のように激しく、そして暗い、殺してやりたいという殺意。あれは、一介の少年が抱くにはあまりに鋭利すぎるものだった。
- アーネスト
- 自分の中で燃え盛ったものを、イスカが正しく受け止めてそれを言葉にすればするほど、悔悟の念は強まっていく。
- イスカ
- 「――わたしたちは、心を分け合うと決めたの。だから、さっきのことは謝らなくていい」
- 「お互い様、だから」 ふ、と口元を緩め
- 「ただ――」
- 立ち上がり、アーネストと視線をあわせる。
- アーネスト
- 「……」 分け合うには、それはあまりに昏いものだから。それすらも分け合う事はしたくない。そんな迷いが表情に現れながら、
- イスカ
- 「怒りに、殺意に―― 感情に飲み込まれないで」
- 「それは、強い力をあなたに与えるけれど―― 同時に、あなたの手から大事なものをこぼれ落ちさせる」
- アーネスト
- 立ち上がったイスカの視線を、声を、繋がり、伝わる想いを逃げずに受け止める。
- イスカ
- そっと歩み寄り、少年の両頬に白い手を添える。
- アーネスト
- 添えられた手の温度に、僅かだけ身体が強張る。けれど逃げずに、視線はじっと返す。
- イスカ
- 「あなた自身は刃じゃない。あなた自身は、剣になってはいけない」
- 「何のためにその剣を振るのか、それを忘れないで」
- アーネスト
- 「僕、……自身、は」 小さく反芻しながら、その言葉を一つずつ嚥下する。
- じっと見つめるイスカの瞳は、開かれていた唇より、想いを繋げる指輪も雄弁だった。
- (指輪よりも。
- イスカ
- 「――わかった? アーネスト」 囁くように。
- アーネスト
- 何の為に剣を振るうのか。――それは仲間の為で、誰かの為で、であるならそれに相応しいものは殺意ではない。
- すぐに、イスカへの返答はしなかった。語られたそれを噛み締めて、思い知って、刻み込んで――
- イスカ
- 身を寄せ、ぽんぽんと少年の頭をなでる。少年と少女の背丈は、まだ、そう変わらない。
- 「大丈夫――次があったら、わたしが思い出させてあげる」 その声は、アーネストの耳元で響いた。
- アーネスト
- 「……、」 彼女の声は、酷く落ち着く。沈み込んで、身体の中に溶けて行く感覚。
- それが、指輪を付けているから――だけだとは、思わない。目を伏せて、イスカへと頷いてみせる。
- イスカ
- 「―――」
- すっ、と身を離して
- アーネスト
- 「次は、ないよ」 イスカの唇が耳元にある内に、そう呟けば
- イスカ
- 先程よりどこか柔らかな表情で、こくりと頷く。
- イスカ
- そろそろごはんじゃ
- アーネスト
- アーネストの声もまた、イスカの耳元で囁かれ 離れた後も、少年の唇は動いて。
- イスカ
- 「……ん」
- アーネスト
- 「イスカさんが、教えてくれたから。……ちゃんと、思い出すよ」
- イスカ
- 「――うん」
- アーネスト
- 普段と同じ、人懐こい――だけではない。群れの仲間に狼の幼子が浮かべるそれのように、幼さの中に雄々しさを宿した笑みを浮かべてみせた。
- アーネスト
- ではではお時間もいい具合ですしこの具合に
- イスカ
- そんな顔をすると、少年も、少女も、年相応に見えた。
- イスカ
- ふぉい
- おつかれさまでした!
- アーネスト
- おつかれさまでした!
-
- 暫く、少年と少女は言葉を交わして
- 標を宿し、宿された彼らは、それぞれの休息を取り 翌日の行軍に備えるのだった。