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雪に融ける-挿話-

20211113_1

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上記セッション開始時から1日先の時系列で発生する、トゥエルヴ側の出来事です
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あなたが見ることはないけれど

これは、これからあなたが向かう先で起こる出来事

あなたが聞くことはないけれど

これは、これからあなたが向かう先で響いた慟哭

この場所で起こった出来事も、響いた慟哭も、全てはこのまま
 
 
 
 
 
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Beginning of the End / I am Setsuna OST100%
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北の森 / Tango @FlowScape
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 冬眠に備えて食糧を得る為、野生動物が森を掘り返すのと同じように
雪が降る直前というのは色んなものが掘り返される。
悪意によって殺された人の遺骸だったり
人には見られたくない誰かの暗い過去だったり
秋口からそうやって色んなものが掘り返されると、彼らの仕事も必然的に増えていった。

少年トゥエルヴにとって居慣れた場所であるはずの神殿が、いつからか帰りづらい場所に変わってしまったある日の事。数週間は本来の名目で活動することのなかった彼の部隊に、出動命令が下った。
ドラスから馬車で半日東に向かった先、エニア丘陵に点在する宿場町の一つから告発があった。それが穢れに関わる問題とのことで、彼の部隊――審問隊の動員を求められたという。
同時期に別の地方からも出動要請があり、ただでさえ人手が足りなかった部隊は一気にてんてこ舞いとなった。
結局のところ、少年トゥエルヴとセブンという女性隊員が、任地へと送り込まれる事になった。
 
 
 宿場町の町長・メイユ――愛国心の強い民は、自国の地名から名を取ることもあるらしい――はマルフォード大公国の出身ということもあって、調査にはとても協力的だった。
ある宿で働いていた下男が、ナイトメアという正体を隠していた事、その彼が戦神ダルクレムを信奉していた事が町長・メイユから告げられた。
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納屋 / Tango@FlowScape
町民から下男の身柄を引き取り、町長の屋敷の納屋を借りて下男から更に情報を聞き出した。
当初はその強固な態度から、情報を聞き出し悔悛を促すのに二巡はするだろうかと思えたが、セブンは半日もしないうちにその両方を下男の口から吐き出させた。
半日ぶりに見た下男の有様を見て、トゥエルヴはぎくりとした。凄惨なものだった。二巡もさせるつもりがなかったのだろうか。
 果たして得られた情報では、下男は密かに蛮族と通じていて、信奉者を増やす為に影で動いていた事。時を見計らって町を襲う算段を立てていた事、増やした信奉者はまだ少ないながらも、北の森に身を潜めさせていた事が明らかになった。
審問の後、下男も捕えた信奉者たちも、身柄は一度町に譲渡される。この手続きと吐かせた情報を町長・メイユへと伝えると、彼は身柄の引き取りを拒んだ。戦神ダルクレムを信仰し、一度でも町に対して叛意を翻そうとした以上、更生したとしても町民として受け入れられない。
初めから、審問隊の手で処刑される事を望まれていた。町の長としては理解できる判断だった。こうした事は何も、これが初めてというわけでもない。穢れを厭うものは、まだ世界のあちこちにいた。
「世俗の腕」が引き取りを拒んだ以上、審問隊には略式処刑が認められる。悔悛を拒んだ者、更生が望めない者、宗務を著しく妨害する者がいれば、審問隊は彼らの命を奪う事が許されるのだ。
 セブンは森羅魔法の使い手でもあったから、支部への報告は滞りなく行われた。脚に手紙を括り付けた白い鳩が、灰色の空へと飛び立っていくのを見て「ああ、明朝にでも雪が降りそうだな」と少年はぼんやりと思うのだった。空を覆う厚い灰色の雲の間から、弱弱しい陽の光が大地を照らしている。照らされた大地には、燃えるような赤々とした紅葉がまだ残っていて、美しい景色のはずなのに、それが少年の心を動かす事はなかった。
これから二人掛かりで残りの信奉者たちを捕縛しに向かう。町の近辺に潜伏しているであろう蛮族は、さすがに隊員二人の手には余る。ある程度事前に保険はかけてあったので、セブンの手紙が届いたのを合図に後発部隊が送り込まれることだろう。
民兵と侍祭達に町の警邏を任せ、トゥエルヴとセブンは下男が示した北の森へと向かった。
 
 
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北の森の小屋 / Tango@FlowScape
 頭上には紅葉、眼下には薄く霜の降る地面。吐く息は白い。
下男の明かした通りの場所に、ひっそりと、今にも崩れてしまいそうな小屋が建っていた。
窓は板で打ち付けられており、中の様子は伺えない。戸口も一つしかないので、二人は息を合わせて突入した。

どん。

扉を蹴破り、迅速に屋内を制圧する。あっという間だった。相手は女や子供、年寄ばかりが数人。やせ細った体で身を寄せ合い、怯えていた。
行き場のない、生きる望みの薄れた者たちをそそのかして、自らの境遇を呪う代わりに町を呪って、そうして集まった者たちだった。
トゥエルヴ
「………」
セブンが信奉者たちを粛々と捕縛している間も、トゥエルヴは動けずにいた。
普段の少年とは違った様子に、セブンは訝しみながらも出入口の見張りを命じた。その時だった。

がしゃあん!

トゥエルヴもセブンも手が離せない状態になった隙を突かれて、一人の少女が落とし板で塞がれた窓を、板ごと打ち破って外へ転がり出た。
セブン
「トゥエルヴ、あれは粛清対象です」
セブンの掛け声に、呆然としていたトゥエルヴが少女を追って駆け出した。
板ごと打ち破った時に、肌を引っ掛けてしまったのだろう。枯草や霜で覆われた地面に、点々と赤い血の跡が続いている。
傷口を抑えながら走る、やせ細った少女を追いかけるのは、難しい事ではなかった。距離が縮まる程に、彼女の息遣いが伝わってきた。泣いている。時折背後を振り返る少女の額には、黒い角が見えた。

小屋から数十m離れたところで、少女をフレイルの間合いまで追い詰めた。少女の背中を狙って、フレイルを振りかぶる。
出来れば肩を当てたい。
当たれば動けなくなる。
多少当たり所が悪くても、急いで連れて戻って手当てをすれば――
そう自分に言い聞かせながらフレイルを振るう瞬間に、"ありがとう"とミミズがのたくったような字で書かれた手紙がフラッシュバックした。
トゥエルヴ
「!」
フレイルの鉄球は、少女のすぐ横の木の幹に当たった。
飛び散る木片と衝撃に、少女が地面に転がる。
ぜえぜえと肩で息をする少女。少女を見下ろすトゥエルヴも、荒い呼吸を繰り返していた。こちらは、疲労が起因の息切れではない。

宗務の妨害。セブンからも指示が出た以上、この少女は処刑していい対象となった。
もう一度フレイルを振りかざす。しかし、振り上げたまま振り下ろすことができなかった。手の震えが、鉄球をぶら下げる鎖にも伝搬して、細かい金属音が鼓膜を震わせた。
泣いている少女と、泣いているかのように顔を歪める少年が相対して、永遠にも思える時間が過ぎた頃……
雪片がひらりと少女の頬に落ち、その冷たさに我に返った少女がゆっくりと、相手を刺激しないように立ち上がった。
依然として動こうとしないトゥエルヴに、少女は後ずさりを始め、追いかけてこないと分かると踵を返して駆け出した。
駆け出す中でちらりと少年を振り返ったのを最後に、ナイトメアの少女は木々の合間に消えていった。
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北の森 / Tango @FlowScape
周囲から人の気配が消えてから、トゥエルヴは手に持っていたフレイルを地面に落とした。
トゥエルヴ
「……どうして…っ」
動かなかった両腕を見下ろして、それからそれらを掻き抱くように体を丸めた。
追わなきゃ、と考える頭に反して、頽れた両膝は地面についた。膝が、雪と霜に濡れて冷たい。
トゥエルヴ
「どうして……なんで……! 殺さなきゃいけないのに、どうして動かなかった……僕の、体なのに!」
繰り返し自身に問い続ける。
ふと、落としたフレイルが視界に入った。それは以前、マルフォード大公国での事件の折に手に入れた白銀のフレイルだ。
 
"穢れがあるから許されないではなく、許せない行いをしたのが穢れを持っていたんだよ"
 
サカロスの神官が優しく諭すようにそう言っていたのを思い出す。

"例えば、わたし以外のグラスランナーが、許せない行為をしたとして
わたしも、きっと同じように裏切る……そう思いますか?"

神の声が聞こえないというグラスランナーの少女がそう言っていたのを思い出す。

"誰かに、ほんの少しでいいから、認めて欲しいと……生きていていいんだと、言って欲しくて、仕方がないの"

陰気なリカントが何処か泣きそうな顔でそう言っていたのを思い出す。

"――そんなに苦しそうなのは、
……トゥエルヴの中に、どこか、そんな葛藤があるからなんじゃ、ないですか"

詰めていた息を吐くのと同時に、その言葉を思い出して目を見開いた。

"……僕、本当は――"

――あの時、何を答えようとした?
伝えようとして、続く言葉が見つからなかったからじゃない。本当は既に言葉を見つけているのに、口にしてはいけないと心が叫んでいた。
何て、伝えようとした――……?
トゥエルヴ
――……駄目だ」
先程とは打って変わって、考える事を拒む言葉を、震える声で呟いた。
しかし、一度開けかけた蓋は、中から溢れてくるものを抑えきれない。
両手で口を塞いで、恐怖に両目から涙が滲んだ。
トゥエルヴ
「……だめだ……っ!!」
感情を無視して組み上がっていく言葉が怖い。
頭を抑えてみても
悲鳴を上げてみても
痛みを与えてみても
全てを無視して言葉が組み上がっていく。
嫌だ、怖いと思うほど鮮明に
水面に浮かび上がった上澄みを丁寧に掬っていくように
考える頭が、二つあるみたいだった。
トゥエルヴ
「ライフォス……」
僕、本当は――
トゥエルヴ
「ライフォス、ライフォス……」
本当は……
トゥエルヴ
「ライフォス、ライフォスライフォス!」
ナイトメアの事、憎んでなくて
トゥエルヴ
「お願い、声を聴かせて」
嫌いでもなくて
トゥエルヴ
「声を……」
でも
トゥエルヴ
「声が聴ければ、迷わずに済むんだ!だから……」
憎まないと、嫌わないと
トゥエルヴ
「声を聴かせてよ――…!!」
誰かを殺すなんて、出来なかった
 
 
 
組み上がったのはライフォスを裏切る言葉だった。
押し込めていたのは自分の信念を裏切る言葉だった。
ちらちらと降る雪に、少年の悲鳴と涙が吸い込まれて融けていった。
"雪が降ったら――……"
先日交わした約束も、今や遠い過去のように感じて、少年はまた一粒大きな涙を零した。

少年の丸まった背中に薄っすらと雪が積もった頃、
少し離れた木陰から、一羽の白い鳩が灰色の空に飛び立って行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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