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- ノーラが入室しました
- 【王都イルスファール西門付近、壁外】
- マギテック協会並びに王国鉄道公社の敷地を臨む城壁外の一角にある空き地である。
鉄道の資材置き場としてならされたその場所には、そのうちまた資材置き場として使うかもしれない、という極めてアバウトな理由でそのまま空き地になっていた。
そんな空き地に、いつの頃からか勝手に木製の的やら丸太やら巻き藁が持ち込まれるようになった。
冒険者の仕業である。街中での刃傷沙汰はご法度、とはいえ、仕事の無い日々に腕を鈍らせるわけにもいかぬ。
体の良い訓練場として、この空き地は冒険者の間で細々と利用されているのだった。 此処ならば多少派手な物音を立てても大丈夫――
住民たちはきっとこう思うことだろう。「ああ、また“ビッグボックス(びっくり箱)”の連中が何かしてやがるんだな」と――
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- ノーラ
- 「―――」空き地に聳え立つ黒鉄の城――というには小柄だが、バレルヘルムにフルプレートを着込んだ少女が、巨大な鎚を手にその場に居た。
- 「やあああ!」目の前には丸太に麻縄を幾重にも巻きつけた標的がある。そこへ大鎚を打ち込む。ゴスッ、と鈍い音が響く。
- その細腕から発揮されたとは思えない膂力と武器の重量が合わさって、太い丸太の標的が軋み、撓む。
- 「………」兜の下で、むぅ、と唸る。威力は十分だ。だが充分な結果ではない。
- 「騎士神ザイアの名の下に――受けよ、鉄槌!」 続いて、神への奇蹟を希い、突き出した腕から不可視の衝撃波を放つ。
- 威力10 C値10 → 1[2+2=4] +8 = 9
- 「………」奇跡は成された。見えざる神の手が標的を打つ。しかし、兜の下で、またむむぅと唸った。
- 古代語系魔法、妖精魔法、神聖魔法の種類を問わず、魔法を扱うことの出来る戦士を魔法戦士と呼ぶ。
- ノーラ・ハルトマンは騎士神ザイアを信奉し、その奇蹟を授かった神官であり、兵士である。
- 区分上、魔法戦士――奇蹟を扱うことから神官戦士と呼ばれる――で間違いはない。
- しかし、彼女は自分がまだそれになり切れてはいないと考える。
- 戦士として鎚を振るう事が出来、神官として奇蹟を行使することが出来る。だが、それだけだ。
魔法戦士の真骨頂、武器と魔法の同時運用。その技術がどうしても再現できない。
- 先日、冒険者の為の訓練場の試験運用に参加した時のことを思い出す。
https://sw.tale.blue/chat/?mode=logs&log=20210427_01
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- 班単位でのレース(班旗を守りつつ奪い合い、ゴールを目指す)では、鈍重さからチームの足を引っ張り、ルーカスを始めとする精鋭チームの連携の取れた行動に対して、チームの盾になる事もできなかった。
- 優秀な成績でレースを勝ち抜いた彼らは、あの"夜叉姫"との実戦形式の訓練でなんと本気を出させたのだという。
- しかも、それを為したのが自分と同じ日に冒険者の登録を行ったエルフの剣士だというから、どうしても差を感じずにはいられない。
- 冒険者の頂点を目指すという目標を掲げ、それに向かって邁進する彼女は、先達としての経験の豊富さを感じさせるルーカスとは違った敬意の念を抱いている。
- しかし、自分は騎士神の信徒、人々の守り手となるべき者なのだから。
- 彼らに後れをとってばかりはいられない。
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- そう、自分もあの訓練の際に魔剣の一人から稽古をつけて貰ったのだ。
- かの"大英雄"の教えといえば――
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- ジャック
- 「――あぁ? どうやって剣と魔法を同時に使うんだって?」
軽い手合わせを行った後のこと、何を思ったかジャックは皆で食事を摂ろうと言い出した。その準備の最中に話をする機会を得た。
- 「そんなもん、お前ぇ、ザンッとやって、ブワって感じだよ」芋の皮を剥きながら、ひどく抽象的な答えが返ってきた。
- 「わっかんねぇよな? オレも何言ってんだって感じだ、ははは!」
- 「オレも最初は分かんなくてよぉ、前で戦うっつっても、やることは思いっきりぶった切るくれぇで、精々、両手で行くか盾ありかってとこしか考えてなかったんだわ」
- 「で、まぁ、ある奴から『自分の可能性を自分から狭める必要はない』『全力で戦いに当たるよりも余力を残して周りに気を配るべきだ』って言われてな」
- 「オレに出来ることは何だ?って考えてよぉ、妖精の手をもっと借りらんねーかって思ったわけだ」
- 「妖精ならテキトーに頼んでおきゃあ大体なんとでもしてくれっからな、ちょいと周りの奴らの動きを見つつ、声かけて、そんでぶった切る。言ってみりゃそんだけのことだぜ」
- 「周りも見る!敵もぶっ倒す、ついでにてめぇも倒れねぇ、こいつが英雄の条件ってわけだ。ところでお前ぇ、なんでバケツかぶったまんまなんだよ――」
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- ノーラ
- 「周りも見る……」薄暗いバケツの中で"英雄"の言葉を口にしてみる。苦手分野だ。
- この兜はウジ虫で弱虫の自分に前を向くことを教えてくれた。
- 前だけ見て、全力で打ち込む分にはそれで良かったが、この地に流れ着いて冒険者として活動してみて、それでは足りないと感じた・
- 彼のように味方の盾役を務めるような立ち回りは難しくとも、せめて、自分の扱える奇蹟をもっと活かして味方の助けになりたい。
- 「……」兜を脱ぐ。汗をかいた肌に風がひんやりと心地良い。視界は広くクリアで、音もよく聞こえる。
- 「――すぅ……はぁ」大きく深呼吸をする。自分はウジ虫で弱虫で、周りの皆が出来る事が出来ないけれど、
- 兵士ではなく、冒険者ならば、頭は空っぽにするわけにはいかない。
- 前だけでなく、周りも見て、考えて、行動する。
- 「……」 大鎚を構え、目の前の丸太に相対しつつ――
- その向こう、地面に転がった的の破片を視界に捉える。
- 「や、やあぁぁー」 兜が無いせいか、今一つ気勢の乗らない掛け声と共に大鎚を丸太に叩き込む。
- 威力34 C値12 → 5[1+4=5] +14 = 19
- 「――騎士神、ザイアの名の下に――」 敵に見立てた丸太と自分の間に盾で遮りつつ、先ほど中止した破片が見えるように体勢を入れ替えて、
- 「鉄槌…っ」 神の奇蹟よ、此処に。どうか力を貸し給え
- 威力10 C値10 → 6[5+6=11:クリティカル!] + 3[4+2=6] +8 = 17
- 不可視の衝撃波が破片を過たず打ち砕く。
- 大鎚による打撃から奇蹟を行使するまでの繋ぎはお世辞にも素早いとは言えない。動いていない的相手にそれなのだから、実戦でどこまでものになるか。
- しかし、それは確かな一歩を踏み出した感触を与えてくれた。
- 「……うん」 兜を脱いだばかりの時は、不安に曇っていた表情に笑顔が生まれる。
- 「ううん、と…」 先ほどの自分の立ち回りの仕方を振り返る。いつもの全力よりも抑えて、と意識し過ぎたせいか、振りも踏み込みも勢いが足りなかったように思う。
- 奇蹟の行使に関しては、かの"英雄"に倣ってみた。
いつもならば、集中し、心を込め、奇蹟が為される様を思い描きながら祈る。
それをある意味では手を抜いて、助力のみを嘆願し、結果を委ねた。
そんな祈りでも、騎士神は聞き届けてくれた。
- 祈りは大切な行為だが、奇蹟は行いを為す為に顕れる。
- 道を切り開くこと、人を助けること、その為の最速の一手が奇蹟だ。
- 「……ありがとうございます、神様…」 願いを聞き届け、奇蹟を顕現させてくれた神への感謝は、事を為した後にだって出来る。
- 祈りの為に手を組み、跪いていては、救うべき者に手を伸ばせない。駆け寄る事が出来ない。
- 「よし…」 もう一度、いや、身に着くまで何度でも繰り返してみよう。
- 鎚と盾を手に、標的に向き直る。
- 「行きます…っ」
- 少女は気付いているだろうか。その声、その表情が兜を被っている時と遜色のないものへと変わりつつあることを。
- 訓練は、太陽が中天にあったところから日が傾くまで続けられた・
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- 威力34 C値12 → 10[5+5=10] +14 = 24
- 威力10 C値10 → 2[2+3=5] +8 = 10
- 威力34 → [1+1=2:ファンブル..] = 0
- 威力10 C値10 → 3[3+4=7] +8 = 11
- 威力34 C値12 → 8[3+4=7] +14 = 22
- 威力10 C値10 → 5[4+5=9] +8 = 13
- 威力34 C値12 → 4[3+1=4] +14 = 18
- 威力10 C値10 → 2[4+1=5] +8 = 10
- 威力34 C値12 → 8[6+1=7] +14 = 22
- 威力10 C値10 → 1[1+2=3] +8 = 9
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- 「はぁ……はぁ……っ」 体力と魔力が底を尽き、荒い息を吐いた。元々、持久力はそこまで優れている方ではない。今日はよく保った方だろう。
- 外して標的に被せておいた兜を見上げる。当たり前の話だがあれはとても暑いのだ。外した方が保つのは当然。
- 「……、……」 呼吸を整えながら兜を手に取って抱える。先日の任務で銃撃を受けた時の痕がまだ残っている。
- 「……」 ベンチ代わりの丸太に腰かけて、手ぬぐいを取り出し、兜や鎧を磨き始めた。フルプレートの特に関節部は埃や砂を巻き込むと動きが悪くなる。錆も大敵だ。こうして毎日のように磨くのは日課と言える。
- 兵士としての訓練を受けていた頃、武具の手入れを厭う者も多かったが、自分はこの黙々とした作業が嫌いではなかった。
- 手入れ用の油を差し、きゅっきゅと磨く。凹みや傷を直す事は叶わないが、傷の一つ一つに覚えがあり、自分を守ってきてくれた事への感謝の念を得る。
- 「はぁー」と息を吹きかけ、丹念に磨く。夕陽の照り返しを受けて輝く様に笑みがこぼれる。
- 特に丹念に磨いたのは兜だ。目と耳を塞ぎ、暑苦しい代物だがやはり愛着があるし、何より恰好良い。
- スポンと被ってみれば、やはり不自由だ。だが、その不自由さが馴染む。
- 「ヨシ!であります」ガシャン、と頷き、立ち上がる。
- さっきまで疲労困憊していたのが、兜を被っていると何だかもうひと頑張り出来そうな気がしてくるのだから不思議だ。
- これを被って訓練に打ち込んだ日々だって決して無駄ではなかったのだ。
- ノーラ・ハルトマンは大鎚と大盾を携え、バケツ頭で意気揚々と壁内へと帰還するのだった――