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- が入室しました
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- ――深夜。依頼の帰りに行った野営地から、少し離れた場所。
- 見張りの一人に声をかけ、外の空気を吸いに来ていた青年は
- 武装もせず、ひとり 大きな木に背を預け、座り込んでいる。
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- ルトヴィーク
- ――胸と腹の間が、気持ち悪い。
- 理由は解らない。ただ、動物の眼を見ただけ。
- たったそれだけで、身体がおれの身体じゃなくなったみたいになった。
- 剣を持つのも、振るのも、何をするのも、
- おれの筈なのに、おれじゃない。
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- ――胸と腹の間が、気持ち悪い。
- 考えても、理由は解らない。だって、眼を見ただけなんだ。
- どんな眼を、してただろう。……そう、確か。
- 「――ッ、く」
- ああ、駄目だ。思い出したくない。
- 手足が痺れて、腹の中が全部口から出て行きそうになる。……気持ち悪い。
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- ――胸と腹の間が、気持ち悪い。
- どれだけ考えたか、解らない。ずっとここにいた気がする。
- 皆に怒られる、かも。……でも、今は一人になりたかったし、誰かの声を聞きたくなかった。
- 何の声を聴いても、――
- 「――……あ、ぁ」
- ――あいつの眼が、聞こえて来る。
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- あれは、知っている感情だ。知っている眼だ。
- 全部、思い出した。だって、あれは。
- 「あ、……う、」
- あの感情は。あの眼は。
- 目の前でアウローラが傷付けられた時のおれと、
- 全部、一緒だったんじゃないのか。
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- ――全身が気持ち悪い。
- 頭の天辺から爪先まで、全部が沸騰してるみたいで。
- その中でも、一番気持ちが悪いのは、胸と腹の間じゃ、なかった。
- ずっとうるさい、心臓が気持ちが悪いんだ。内側で、ずっと何かが暴れ回ってる。
- それは、多分
- おれがずっと見ないふりをしていた感情が、今になって必死に暴れてるんだろう。
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- ――胸が、気持ち悪い。
- 「……、違う」
- 気持ち悪い、じゃない。
- 知ってたんだ。ずっと、聞こえないふりをしていただけで。
- 「……、……」
- この感じを、おれは知っている。
- 「――、い、」
- この感覚を、おれはずっと、知っていた。
- 「いたい……!」
- 左胸を、強く握る。すごく、いたい。
- おれは、聞こえないふりをして 何人の感情を殺してきたんだ。
- 自分の感情も、聞こえないふりをして。幾つ、――
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- ――明朝。
- 青年は何とか、身体を動かして野営地へと戻り
- 仲間との合流を果たしたが、その表情は普段のそれよりも目に見えて暗く、
- 何にも彩られる事のなかった瞳には ただ一点、
- 怯えた子供の様に 弱々しい光だけが灯っていた。