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- フレデリクが入室しました
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- レナが入室しました
- フレデリク
- 店でいいよな
- レナ
- いいわよ
- フレデリク
- なんだと
- レナ
- ?
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- 〈星の標〉。王都イルスファールに存在する、冒険者ギルド支店の一つであり
- いくつかの魔剣と、それに続く剣を有しているその名は、リアン地方に広く知られている。
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- 酒場と宿屋が併設されているその店は、人が全くの無人である事は深夜を除けばそう多くはない。
- この日の昼下がりも例に漏れず、それなりに人が入っている。
- 満席というほどではないが、座る事の出来る席はある程度絞られている形だ。
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- フレデリク
- 「――ああ、確かに。毎度ー」 そんな会話をしながら、裏庭へと続く扉が開き、二人の人間が店内へと入ってくる。
- 1人は、毛先に向かうにつれ色の抜けていく黒髪を持った青年だ。代金を渡せば、短くなった髪を気にしながら、そのまま店の入り口へと掃けていく。
- もう1人は、酷く雑に散切りにされた銀髪に、目付きの悪い黒の瞳の少年だ。手には鋏や櫛などが備えられている小さな鞄、また箒と小さく膨らんだ袋を持っている。
- レナ
- 「…………」
そんな様子を、もく、もく、と肉を咀嚼しながらテーブル席から眺めている。
-
- "髪結い"の名でそこはかとなく知られている少年は、店を出て行った青年を見送って
- フレデリク
- 「……あー?」 視線を感じ取ると視線を投げ返し、見知った顔を見ると顔を歪めた。
- レナ
- 「随分な反応ね」
- フレデリク
- そのままかつかつと歩を進めて、ガルバに捨てておいてくれ、と袋を渡す。レナの声にはぴくりと反応しながら、猫背を丸めながら眉間に皺を寄せて歩み寄っていく。
- 「んだよ。お前だって本屋で会った時はこんな面してたじゃねえかよ」 わざとらしく眉間の皺を深める。
- レナ
- 「そうだったかしら。覚えてないわね」
- フレデリク
- 「ハ。小さいのは背だけにしとけよな」 言いながら、その隣の席にひょいと腰を落とす。
- レナ
- 「あなたこそ、そうして猫背にしていると、ただでさえ男のくせに小さい背が余計に小さく見えるわよ」
- フレデリク
- 「…………」
- 「……腹立つわぁ……」 メニューの内、最も安いものをキャロラインに注文しながら、椅子の横に鞄を置く。
- レナ
- 「気にしてるならもうすこししゃっきりすることね」
ハッ。鼻で笑ったぞ。
- フレデリク
- 「うぜえ……なんだこの根暗女ァ…………」 机に肘をついて、笑った眼を睨む。……あ、駄目だ余計に苛々してくる。
- レナ
- 「先に煽ってきておいて、被害者面しないでほしいものね」
- フレデリク
- 「してねーよ」 届いた軽食を雑に摘まんで口へと放る。
「で、何か用だったのかよ」
- レナ
- 「……? 別にあなたに用なんてないけど」
- フレデリク
- 「…………」
- 「テメーがガン飛ばしてきてたのは何だったんだよ」
- レナ
- 「見知った顔が何かやっていたから、なんとはなしに眺めていただけ。人聞きの悪い」
- 「あなたのほうがよほどガンを飛ばしていると思うけど」
- フレデリク
- 「テメーがいつも当然のように喧嘩を売って来るからだろがよ……」
- 「それに何かって、本業だ本業」 机の上には乗せないものの、先程の鞄を少し持ち上げてみせる。
- レナ
- 「どう考えても先に売ってきたのはそっちだと思うけど……」
- フレデリク
- 「…………うっせ」
- レナ
- 「本業」
- 「てっきり逆かと思ったわ」
- フレデリク
- 「そうだよ、こっちが本業なんだ元々」
- 「実入りの差は――まあ、言わずもがなだけどな」
- レナ
- 「でしょうね」
- フレデリク
- 店ン中でもフードしてんのか?
- フレデリク
- 「でもまあ、それなりに冒険者でも働いてっからな。かかる声は増えたぞ、うん」
- レナ
- 基本的にしてる
- フレデリク
- 解った。
- レナ
- 「ふうん。拘りでもあるの?」
- フレデリク
- 「コダワリなー……」 んー、と頭を掻く。
- 「終わった後に喜ばれる様に、っては思っちゃいるけど。それは拘りとは関係ねえしな……」
- レナ
- 「収入の差を考えたら辞めるでしょう、普通」 髪結いの方を。
- フレデリク
- 「……ああ、続ける事に関してのコダワリか」
- 「そっちはまあ……錆び付かせたくねえから、かな」
- レナ
- 「……ふうん」
- 「そう。それは確かに冒険者が副業ね」
- フレデリク
- 「妹がいんだよ。切ってやると喜びやがってさあ」 レナの言葉に頷きながら、嬉しそうに口を開く。
- 「やめらんねえんだよな、妹でも、そうでなくても、そういうの見ちまうと」
- レナ
- 「―――」
- 語るフレデリクの様子に、僅かに目を見開く。
- フレデリク
- 「客にしたってな、まあ全員が全員じゃねえけど……喜んでくれるしよ。金がかかってんだから、喜ばせんのが当然――」 少し語調を早めて、歳相応の幼さを見せながら言葉を続ける。
- フレデリク
- 見えるか?>見開いた眼
- レナ
- こっちを気にしてれば、かな……
- レナ
- 「……そう」
- 視線を目の前の料理に移す。もぐ、と口に肉を押し込む。
- フレデリク
- 「――、?」 軽食を摘まみながら語っている内、フードの奥に起きた僅かな変化には少しだけ首を傾げた。
- 「……んだよ。どうかしたか?」
少しだけ唇を尖らせて、言葉を一度切って問い掛ける。
- レナ
- 「別に、どうも」
- 「いいことね。生き甲斐というやつでしょう、そういうの」
- フレデリク
- 「あー?」
何だよ、と少し怪訝そうにするがそれ以上は続けない。
- 「生き甲斐、……ってーと、何かムズムズすんな」
- レナ
- 「……そういう顔をしていたもの」
- フレデリク
- 「――……」 逡巡して、んん、と小さく漏らす。
「そう、かもな。それで喜ばれるなら、それが一番だ」
- レナ
- 「…………そ。いいわね、そういうの」
目は合わせず、食事を口に運びながらそう返す。
- フレデリク
- 「…………」
調子が狂うな。また好きに言われるだろうと思ったんだが。
- 「……お前もやってみっかよ」
- レナ
- 「…………、は?」
- フレデリク
- 「は、じゃねえよ。一個しかねえだろ?」
- レナ
- 怪訝な表情をフレデリクに向けた。
- フレデリク
- 怪訝そうな表情に、に、っと笑みを浮かべながら、鞄から取り出した鋏を見せる。
- レナ
- 「……いらない」
- フレデリク
- 「一回やってみりゃいいだろよ」
首を傾げながら、笑みは保ったまま。
- レナ
- 「嫌よ」
- フレデリク
- 「……何でだよ」
- レナ
- 「他人に髪とか触らせたくないわ」
- フレデリク
- 「まあ、そりゃそうだろうけどよ」
- 「けど、まあ」 なんだ、と頭を掻く。
「その気になったら言えよ。騙されたと思ってでもな」
- レナ
- 「……気持ちだけ貰っておくわ。頼むことはないと思うけど」
- フレデリク
- 「気持ちを貰って、それを覚えてんなら十分だ。……切った後は笑わせてやんよ」
- 普段向けるものとは別種の、少年らしい笑みを浮かべながら鋏を戻す。
- レナ
- 「……………笑える髪型にされるなんてごめんね。禿頭にでもされたら堪らないわ」
- やや間があって、いつものような軽口めいた言葉を叩く。
- フレデリク
- 「……んだよ。腕が信用なんねえってか?」
- レナ
- 「本業で稼げてないようじゃね」
- フレデリク
- 「ああ言えばこういう奴だよお前は、……ったく」
肩を竦めると、思い出した様にフードを軽く覗き込む。
- 「お前、髪の長さどんなもんだっけ」
- レナ
- 「ちょっと」
覗き込まれ、軽く仰け反る
- フレデリク
- 「お?」
- レナ
- 「女の子の顔をそう軽率に覗き込むものじゃないわ」
- フードをぐい、と深めに下げつつ。
- フレデリク
- 「……」
女の子とか言いやがったぞこいつ。
- 「悪い悪い。話に熱中して、つい気になっちまった」
- レナ
- 「どうせ人に見せたりしないし、整えたって意味がないわ」
- フレデリク
- 「おいおい、そりゃ見せるのも大事だけどなあ」
頬杖をつき、首を横に振る。
- 「一番大事なのはな、自分が気に入る事だと思う……ぞ、うん」
- レナ
- 「断言しきれてないからダメね」
- フレデリク
- 「これで言って信じてくれんのか?」
苦笑しながら自分の髪を軽く触れる。
- レナ
- 肩を竦め。
「あなた、ひとの髪を気にするくらいなら、自分のをなんとかしたほうがいいわ」
- フレデリク
- 「そりゃあまあ、そうだな」
- 「けどよ、お前も忘れんなよ? 初回はタダにしといてやっからさ」
- レナ
- 「本業のつもりなら、もう少しそういうところにも気を配るのね」
- 「……はいはい」
- フレデリク
- 「――んだよ、まーた流しやがったな」
- レナ
- 「そっちが押し付けてきてるんでしょう」
- フレデリク
- 「でもよ」
首を傾げながら、冷水を煽る。
- レナ
- 「なに」
- フレデリク
- 「多分変わるぜ、それ取ってみりゃ」
フードを示しながら、多分な、ともう一度付け加える。
- レナ
- 「……変わらないわ、なにも」
- 「変わる必要も、ないし」
- フレデリク
- 「変わる必要がない、なら」
- 「変える分にゃいいんだよな?」
- レナ
- 「……なんですって?」
- フレデリク
- 「言ったままだ、変わりたくねえ、じゃないんだろ?」
- レナ
- 「……そう言ったつもりよ」
- 「変わりたくないから、変わる必要がないの
- ……わかったら、馬鹿なお節介はやめなさい」
- フレデリク
- 「"変わらない"と"変わりたくない"、は別物だろうよ――お節介は否定しねえけど」
- レナ
- 「言葉遊びはどうでもいいわ。要らない、と言っているの」
- フレデリク
- 「お前が取り繕ってんじゃねえのかって言ってんだけどな」
肩を竦めて、解ったよ、と続けた。
- レナ
- 「………」
それ以上は返さない。
- フレデリク
- 「……」
暫く無言でいたが少しずつ唸り始めると、やがて口を開く。
- 「……悪い、色々言い過ぎたな」
渋々、という様子で口を開いて、食べ終えた皿をキャロラインに手渡した、
- レナ
- フレデリクには何も言わず、
「キャロライン。おかわり頂戴」
- フレデリク
- 流したレナに不満を漏らすでもなく、頬杖を突いたまま静かに過ごす。時折冷水の入ったグラスを煽りつつ。
- レナ
- おかわりが届けば、黙々と肉を食み、胃の腑に流し込む。
- フレデリク
- 喧騒と、隣から聞こえる食事を行う音に耳を傾けながら、時折もごもごと唸る音は発しているものの、やはり口は開かない。
- レナ
- 「―――」
おかわりの最後の一切れを口に運ぶと、徐に立ち上がる。
- フレデリク
- 「……ん、おい」 立ち上がった小さな背に、小さく声をかける。
- レナ
- だん、とやや荒く金貨をテーブルに置く。
- 「―――なに」
- フレデリク
- 「言い過ぎた、けどな」
- 荒く置かれた金貨には、少し怯む様に言葉を止める。
- 「いつでもいいからな。……そんだけだ、止めて悪かったな」
- レナ
- 「………」
- ふん、と軽く鼻を鳴らし、自分の荷物を引っ掴み、店の外へ出ていく。
- フレデリク
- 「……」
出て行く様子を見送って、頭をがしがしと掻く。
- 「こえー……」
- フレデリク
- こっちはこれくらいだな。
- レナ
- じゃあおしまいかしら
- フレデリク
- だな。お付き合いサンキューだ
- レナ
- おつかれさま
- フレデリク
- おう、お疲れ。
- )))
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- フレデリクが退室しました
- ―――あいつ。あんな顔が出来たなんて。
あの妹を語る少年の表情。
ああ、何を期待していたのだろう。なんて愚か。
- 同類とまで思っていた程ではない。ただ、少し擦れたふうではあったから。
- ……それが、あんな。
- まっとうな、夢や希望のある人間の顔をするなんて。
-
- レナ
- 「なんて―――妬ましい」
勝手に期待して、勝手に失望しただけだ。
それでも。あいつも不幸になればいい、などと。本気で思っている自分にもうんざりする。
……胃が疼く。
あんなに食べたのに、餓えている気がする。
- あまり、良くない傾向だ。……万一、食い散らかす前に、何か、発散しなければいけない。
―――と。
- 「……おい、ガキ。人にぶつかっといて謝りもしねえのか?」
- レナ
- 「―――?」
- どうやら、ぼんやりしている間に、男にぶつかっていたらしい。
……とはいえ、骨が折れた訳でもあるまいに、大袈裟な男だ。
- 面倒だ、無視しよう、と思ったが、どうも男は引き下がるつもりがないらしい。
- レナ
- 「―――はあ。まあ、丁度いいか」
- こいつで、鬱憤を晴らさせてもらおう。
- そう決めると、折よく男が掴みかかってくる。
- レナ
- 「……じゃあ、正当防衛ね」
―――その後、男の悲鳴が数回に渡って響き渡ることになった。
- 不幸な人を見ると、安心する。
- 好きなのではない。ただ、安心するのだ。自分以外にも不幸な奴はいるのだ、と。その存在を確認して安心する。
- 低俗な、暗い喜びだ。でも、別にそれでいい。
- どうせ自分はまともにはなれない。
- 真っ当な幸せを手に入れようとしても、手に入れた端から自分で台無しにするだけだ。
- だったら、これでいい。
- 人並みの幸せなど諦めて、俗な悦で腹を満たしていれば、それでいいんだ―――
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- レナが退室しました