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- ルトヴィークが入室しました。
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- 王都イルスファール、〈星の標〉――その2階のある部屋で、青年は寝台に寝転がっていた。
- 身体の疲れ――痛みを感じない青年には、倦怠感だけであるが――もある。とかく、普段通りではなかった。
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- ルトヴィーク
- ゆっくりと、静かに流れる時間は嫌いではない。
- 煩いよりはずっといいし、口を開く必要がないのもいい。
- 傭兵時代の様に駆り出されることもない。自分が好きなように、好きなだけ働けばいい。
- 仕事を請けていない間は急ぐこともない。何も考えずに、ただじっとしていられる。
- 「――……」 そう、ちょうどそこの小窓を覗いて、大好きな空を眺め続けていたって、誰も咎める事はない。
- けれど、今は。
- 「…………」 晴れ渡る空を見るのは、少しだけ嫌だと思った。
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- ルトヴィーク
- 気が付けば、また眠っていたようだった。身体のだるさはまだなくならない。
- 空はまだ晴れたままで、雲の一つもかかっちゃいない。
- そんな事を期待したのは、多分はじめてだったと思う。
- 「…………はら、へったな」
- 独り言を呟いてみれば、乾いた喉が反抗する様に違和感を覚えさせてくる。
- 気に入らないな、と思ったけれど。乾いたのだから、潤さなければいけない。
- 腹も空いた。何か、肉かパンか食べよう。それと――
- いや。
- 今はもう、食べたくない。……食べたくない。
- 「ん……」 ぐ、っと頭を掻いて ゆっくりと身体を起こす。
- 戻ってからずっと眠っていたから、きっと寝過ぎなんだろう。頭がくらくらするのが、少し鬱陶しい。
- 脱ぎ捨てたままの服を着て、ゆっくりと立ち上がる。
- 扉を開こう、として。
- 「………………」 大好きな音が、聞こえてくる事に気付いた。
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- ルトヴィーク
- 「……驚いたな」 音が聞こえた事が、じゃない。
- そんな事を思えた事に、驚いた。……ここに来て、色々あったから、なんだろう。
- 扉に触れた手を放す。降りたら、多分この音は聴こえなくなるし、
- またあの声を聴くのは、嫌だった。
- 少し考えて――でも、喉と腹が変だ。回らない頭は重いし、胸の辺りが何か煩い。
- 〈星の標〉じゃなくても、飯は食える。――だから、窓から出ればいい。
- 適当な上着を羽織って、ある程度の金を持つ。あとは特に、必要ないだろう。
- 窓を開くと、外の音のせいで、あの音は少し聞き取りづらくなった。
- 「……」 ぐ、と力を入れて 窓から抜け出る。落ちる先は店の裏――
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- ルトヴィーク
- 失敗した。
- あんまりにも頭が働かないから、普段みたいに降りる事が出来なかった。
- 違和感はあるけど、血は出てないから多分大丈夫、だろう。
- ゆっくりと身体を起こして、店の中の音に耳を傾ける。
- 2D6 → 8[5,3] +7-1 = 14
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- 「――、」 ピアノの音は、まだ続いていた。
- 店の壁に背をつけて、ゆっくりと目を伏せる。
- 「――、……」 た、たん。たん、……たん。
- 聞いた事のある曲だった。少しだけ、覚えているくらいには。
- じっとして、耳を傾けて――
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- ルトヴィーク
- ――演奏が終わる。
- それは、今までも何度も経験してきた事だったけど、
- 終わる事がわかる事は、あんまりなかった。
- もう少しだけ続けばいいのに、とか。思った気がする。
- アウローラの音が聞こえなくなっても、少し待ってみる。次があるかもしれないと思ったから。
- 「……終わり、か」 あんまり待ってないかもしれないし、すごく待ったかもしれない。
- ぼんやりする頭じゃ、あんまり考えつかなかったけど。
- この音は聴きたいけど、あの音は、今は聴きたくなかった。
- ――いや、聴きたいけど。言葉が、よくわからない。何て言えば良いのかわからなくて、やっぱり腹の上が変だ。
- 立ち上がって、ゆっくり歩く。また、演奏が始まるかもしれないから気になったけど
- 次は、なかった。
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- ルトヴィーク
- 適当に飲んで、適当に食って。
- 気付いたら、アウローラの神殿にいた。
- 今日は、約束の日じゃなかったけど――ローラの所に行こうと思った。アウローラが、今はいないって解ってるから、だけど。
- 「――なあ、ローラに会いにきたんだ」 俺から声をかけると、神殿の奴は少し驚いた様にしてた。
- いつも、向こうがアウローラを呼んでたからだと思う。自分から声をかけたのは、はじめてだったかもしれない。
- 2D6 → 8[3,5] +7 = 15
- 入る前、俺を見ながらクビワツキ、とか言ってる人がいる事に気付いた。
- どういう意味かは知らないけど、そういう風に呼ぶ奴がいる事は知ってる。……よくわかんないし、どうでもいいんだけど。
- でも――確か、アウローラは。良い顔はしてなかった、かもしれない。
- 嫌われたのは、俺がそう言われる様な事をしてたからかもしれない、とか
- 考えながら――連れていかれた。
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- ルトヴィーク
- ローラは、まだ俺にはあまり触らせてくれない。
- 言われた様に、手を下から伸ばしたりとか
- 目を見ない――犬は目を見ちゃいけないらしい――とか
- そういう事をやってはみるけど、うまくいかない。
- 「ローラ」 名前を呼んで、手を下から差し伸べてみる。
- 「おいで」 なるべく静かに、ゆっくり。確か、そう言われてた。
- つん、として、いつも通りローラはこっちに寄ってきてはくれない。――と、思ってたのに。
- この日は、ゆっくりと俺の手に鼻を近づけてきた。あまりない事だったから、少し驚いた。
- 「……」 また噛まれると思ったけど、ゆっくり頭を押し付けてくるローラは、
- なんとなく 今の俺と同じ顔をしてる気がして、
- 「……やめろよ」 そんな顔をするのは。
- 「……」 いつも、アウローラにするみたいに手に寄ってくるローラは
- 「……」 たぶん、顔だけじゃなく
- 「……ごめんな」 同じような事を、思ってるみたいに見えた。……気がした。
- 「俺じゃなくて、アウローラが良かったよな」 そうしたら、多分もっとお前も喜んだろうと思う。
- 「……でも、俺は」 もう片方の手も伸ばしてみても、ローラは嫌がらなかった。普段なら、すぐ逃げるか噛むのに。
- 「アウローラだけじゃなくて」 ゆっくりと持ち上げて、腕の中に収めてみる。――いつか言われたみたいに、ローラは暖かかった。
- 「お前も一緒だと、いいな」 少しだけ暴れたローラは、ゆっくりと大人しくなって
- 安心してくれているのか、わからないけど。俺なんかの腕に、丸まった。
- 「アウローラに会いたいよな。……俺も、だけど」
- その後、少しして
- 神官に声をかけて、ローラを頼んで。
- 次の約束を取り決めて、――〈星の標〉へ向かう道を、大きく遠回りして
- ゆっくり、帰った。
- 大好きな空色は、宿につく頃には真っ黒になっていて、
- 早く明ければいい、なんて
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- SYSTEM
- ルトヴィークが退室しました。