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コモンルーム[X]

20191228X_0

SYSTEM
ルトヴィークが入室しました。
 
 
 
 
 
 
〈星の標〉からゆっくりと抜け出ると、ルトヴィークは途端に顔を歪めた。
聖人の生誕祭のせいか、街は全体的に浮ついた雰囲気が広がっている。
街行く人々は皆、それぞれの過ごし方をしているが――
鼓膜を震わすすべてを呪いながら、彼は歩を進める。
 
胸と腹の間に確かに蠢く何かを感じ取りながら、その堪らない不快感に歯を食い縛る。
あいつらはもうここにはいないのに、ずっと頭の中では響いて来る上に、周囲は騒音(ざつおん)で溢れている。
それらが相まって、どうにも今のこの街にいるということは、どうにも苦しい。
ルトヴィーク
――、うるさい) 先程取った耳栓を、そっと耳に付け直した所で、幾人ものはしゃぐ音は防げはしない。
痛みなんて忘れた筈だったのに、この気持ち悪さは拭えない。
ろくな防寒具も付けずに転がり出た為、身体がどうにも動かし辛い。
身体の中も外も、途方もない気持ちの悪さに包み込まれている上に、それを取り払う術がない。
 
ただ、この感覚をどうすればいいのか、どう向き合えばいいのかも解らないまま。
その脚が向かう先は、意識的か無意識的かは定かではないが、ある一つの神殿だった。
SYSTEM
アウラが入室しました。
ルトヴィーク
一応ここまでが前置きだけど、時間はまだもう少し後だったのに。気にさせたか
アウラ
ああ、そうだったのですわね
タイミング的にはここかと思いまして。ではしばらく待たせて頂きますわ
ルトヴィーク
10時、って言っていたしな。
アウラ
あら、見落としていました。申し訳ありません。。
ルトヴィーク
……あれ。
ああ、10時くらいならいける、だった。
大丈夫なら、じゃあやろうか
アウラ
はい
 
 
それから、どれだけ歩いたかは覚えていない。
残っているのは、夕食を食べ終えた後に(フェクター)と、それから吟遊詩人、とかいう奴と話をした記憶だけだった。
ぼんやりと歩いて、少しでも騒音(ざつおん)がしない方へ。少しでも(うた)が聞こえる方へと向かって――
ルトヴィーク
気付けば、アウローラに引き摺り込まれた神殿の前に立っていた。
ルトヴィーク
と、ごめん もう大丈夫だよ
アウラ
では
 
アステリアの神殿は、必要最小限の灯りを伴って、静かな姿を見せていた
何故かと言えば、聖人の誕生祭の主催はライフォス神殿であり、主会場もライフォス神殿であるためだ
公園にも人影は少なく…‥‥いや、居るには居るのだが、ベンチなどでお互い身を寄せ合うカップルや親子等が散見する形だ
だが、耳を澄ませれば
微かではあるが(うた)が聞こえてくる
その(こえ)は、神殿の前で立ち尽くすルトヴィークの後ろから聞こえた
ルトヴィーク
背後から聞こえた声に、ひとつ視線を向けて
「……」 振り向いたその表情は、普段の無表情とは異なり 顰められた表情には、どこか安堵の様なものも含まれていた。
アウラ
「──、今日はライフォス神殿の方にみんな集まっているので、そちらへ伺ってはいかがですか」 歌声のあと、しっかりとした言葉がして、
青い聖人(サンタ)の服に、長いスカート 白いぽんぽんがついた青い帽子を被った 短めの金髪に空色の瞳の少女が立っていた
「いい夜ですわね、ルトヴィーク」
ごきげんよう、と微笑んで見せて お辞儀を1つ
ルトヴィーク
「……ちっとも良くない」 頭を振って、胸を押さえて
ただ、その(ルビ)に安堵したように表情を消し(ゆるめ)
アウラ
「……どうされました?」 胸を抑える素振りに 微笑みを消して
ルトヴィーク
はあ、と息を漏らす。嘆息ではなく、やはり安堵した様にだ。
「知らない」 首を横に振って吐き出すと、もう一度知らない、と繰り返す。
アウラ
「……体調が優れないのであれば、休みましょう。そろそろ皆も戻って来てしまうので…」 空いてるベンチの1つを示して
身に着けていた外套(マント)を外してルトヴィークに被せながら その手を引く
ルトヴィーク
提案を受けてもそれに頷く事は無かったが、
冷え切った手を引かれれば、それに従って歩を進める。
同時に、確かに胸に残る嫌悪感が薄らいだのを感じ取ると、その手を緩く握り直した。
アウラ
ベンチにルトヴィークを座らせると その手を温める様に両手で包んで
「……何かありましたか」 ゆっくりと、労わるような声音で 話しかける
ルトヴィーク
「……何があったかは、解らない、けど」 首を横に振って、ぐい、と手を包む温度を引き込みながら
その手を自分の左胸よりもやや下に押し付ける。
「気持ちが悪いんだ。どこに行っても煩くて、……宿も、空地も」
アウラ
「……気持ちが悪い、ですか」
ルトヴィーク
解らないけど、と再度繰り返して 縋る様にその温度を手繰る。
アウラ
「……そうですわね」普通の体調不良の類でもないのだろう
精神的なもの、サニティを使っても良いかもしれないが、それで解決したところで瞬間的なものだ
「少し、お話をしましょうか」
ルトヴィーク
ぎ、と音が聞こえそうなほどにゆっくりと頷いて
「……また、聴いてもいいか」
アウラ
「歌を?」 嬉しさと期待と、そして驚きを混ぜた声で
ルトヴィーク
「……それは、あとで」 首を横に振って
「お前なら、わかるんじゃないかって。……思ったから」
アウラ
「…ふふ、はい」 否定されなかったのが、嬉しかったのか、屈託のない笑みを見せて
「では、伺いましょう」
ルトヴィーク
「……ひと、って」
「親から、何かを託されて生きるものなのか」
「……願いとか、想いとか」 そんな事を、詩人は言っていた気がする。思い出すように俯いて
アウラ
「……そうですわね、親というものは、子供に期待をするものです」
ルトヴィーク
その言葉には、ぴくりと――というよりも、びくりと手を震わせた。
アウラ
「自分の様になってほしい。自分を超えて行って欲しい。健やかに育って行ってほしい……幸せになって欲しい」
その手を握る力を少し強くして
「あるいは、自分ではできない事をしてほしい、自分の様にならないでほしい…でしょうか」
「ただ、それは」
「別に親から、だけとは限らないものですわ」
ルトヴィーク
「……親からもらうものが、ヒトだって聞いた」
アウラ
「託すというのは、言ってしまえば押し付けです」
「取り繕う事をしないとそう表現するほかありません。期待というのも同じことですわね」
ルトヴィーク
「もらったものを、自分の子供にまた託すのが、人が生きるものだ、って」 アウラの続いた言葉には、押し付け、と反芻して
アウラ
「……」目を細める様にして 「そうですわね、それが人の営みです。とても自然な、営みですわ」
「でも、1つ語弊があるとするならば」
「それが、自分の子どもでなくても人は生きていけるのですわ」
ルトヴィーク
「……親からだけじゃない、?」 合っているだろうか、とゆっくりと視線を持ち上げて
アウラ
「はい。教える、伝える、それは、自分の子ども相手じゃなくてもできる事です」
「貰う相手も、親からだけではないでしょう?」 諭すような口調で
「託したい相手も、託される事も、親子だけでは成立しえません」
ルトヴィーク
「……」 鉄色の眼を向けて ゆっくりと頷く。
「ああ、……多分、あんたからも」
アウラ
「…こういう時くらい、名前を呼んでもばちは当たりませんのに」
ルトヴィーク
その言葉には、眉根を顰め――ずに、
「アウローラ、からも」 名を口にしながら、引き込んだ手の温度を感じ取る。 
アウラ
嬉しそうに笑って
「…‥人を教える役割を得るというのは、それだけ多くの事を託せるという事。貰い続けて、渡し続ける。その橋渡し役というのを先生と呼ぶのでしょうね」
ルトヴィーク
「なら、あんたは」 またゆっくりと俯いて 確かに薄れた嫌悪感に緩く息を漏らし
「俺にとっての"先生"、……なのか」
アウラ
「……」目を丸くして 「…どうでしょう。そう見て下さるのであれば、」
「その役目をお引き受けしましょう」 ふふ、と笑って
「ルトヴィークの先生、アウローラですわ」
ルトヴィーク
「そう呼んだりは、しないけど」 先生、と自分でも語ってみせたアウラには、眉を顰めて
アウラ
「ええ。アウローラと呼ばれる方が嬉しいです」
ルトヴィーク
「……ヒトがそういうものじゃないなら、俺は別のものかって思ったんだ。そういうの、俺は持ってなかったから」 整理するように吐き出して――名を催促するような言葉には、む、と口を結ぶ。
「……もう、今日は呼んだ」
アウラ
「何度呼んでも減る訳ではありませんのに」少しむくれるふりをして
「……あなたには、」 その言葉を受けて
「ルトヴィークには、まだ沢山の事を学んでほしいですわね」
ルトヴィーク
「……学ぶ?」
アウラ
「貴方は持ってないかもしれません。でもそれは、頭に"まだ"とつくだけなのだと思うのです」
「……まだ、知らない事が多すぎるのです」
「だから、まずは」
ルトヴィーク
口を開きかけて、それを呑み込んで
アウラ
「"知りたい"、と思いましょう」
「まずはそれからですわ。レッスン1です」 ふふ、と笑って 
ルトヴィーク
「……"知りたい"」 その笑顔を見て、またどこか嫌悪感が薄れた事には気付かないまま反芻して
アウラ
「興味を持つと言いますか。何についてもまず、聞いてみるのが良いでしょうか」
「そしてそれを、憶えるのです」
「記号にせずに、記憶として、憶えるのです」
「私の名前を、覚えてくれたように」
ルトヴィーク
その言葉を一つ一つ噛み砕いていこうとして
名を、と語るアウラの言葉に一つ首を傾げる。
「でも、それはあんただったからだ。覚えようと思ってしまったのは」
アウラ
「……では、私の事から、覚えてみますか?」
ルトヴィーク
「……もう、覚えただろ」
アウラ
「名前以外をです」
ルトヴィーク
「……」 首を傾げて
「性悪で、煩くて」 それぞれ指を折って 「強引で、お節介で」
「脚が遅くて、……でも、出す(おと)は嫌いじゃない」 言い切ると覚えただろうと言わんばかりに視線を向ける。
アウラ
「……」今度はふりではなくむくれて
「……他の方も、そうして覚えて行くのです」 息を1つ吐くと 表情は戻って
「色んな事を知っていけば、それを誰かに伝えようとすることが出来るでしょう」
「そうすれば、貴方も誰かに託す側に……親になれますわ」
「今は貴方は受け取る側……子供です」
ルトヴィーク
「……」 親に、と言われれば困った様にしながら
アウラ
「…あなたもヒトです、という事です」 手を離して
片手をルトヴィークの頭に持っていく
ルトヴィーク
「ヒト、……」 離された手には、酷く名残惜しそうに右手を伸ばして追おうとして、それを空ぶって
アウラ
「だから、自分がそうじゃないと考えて不安になる事はないのですわ」 頭を撫でて 微笑む
ルトヴィーク
頭を撫でられれば、そのままアウラの身体へと頭を擦り付けて 動物がせがむ様にして
「……不安、っていうのか。今の、嫌な感じは」
アウラ
「……」 あ、と声が出るが ルトヴィークを支える様に背筋を伸ばす
ルトヴィーク
「……なあ」 それを止められないのであれば、やはり獣の様に匂いを嗅ぐ。
アウラ
「……る、ルトヴィーク…その、少し離れて下さいますか」
ルトヴィーク
離れろ、と言われればぴたりと動きを止め、ゆっくりと距離を取る。
「……? 離れたけど」
アウラ
「………」
ルトヴィーク
何だ、と言わんばかりに無表情のまま視線を向けて
アウラ
「……」どういったものか 「……あまり急に近づくと、驚いてしまいます」 少し深刻な表情をして
「なので、こうしましょうルトヴィーク」
ルトヴィーク
「……どうすればいい?」 首を傾げて
アウラ
「お互い、相手に触って良いか、確認を取る」
思えば、自分から手を握っているのだから、こちらが不用心なのだ
「緊急時は別ですわ」
ルトヴィーク
「……? うん」 頷いて 「じゃあ、触っていい?」
アウラ
「ただ、こうしてお話できるくらいゆっくりした時間の時は、そうする」
「……手でよろしいでしょうか」
ルトヴィーク
「うん」 頷いて、触れようとしたところで止まって 視線でいいのか、と問いかける。
アウラ
「私もよろしいですか?」 ようやく余裕を取り戻したのか 表情が和らいで
「ルトヴィークの手に触れても」
ルトヴィーク
「好きに、」 したら、と続けようとして
「……」 確か、そう。教わった言葉があった。
「うん。そうして欲しい」 こんな言葉だった気がする、と思い返しながら口にする。
アウラ
「……」少し驚いた表情を見せてから 微笑んで 「ありがとうございます、ルトヴィーク」
その手をゆっくりと握って 温める
ルトヴィーク
ゆっくりと絡められた指先には、確かにその体温が移ったのか、先程までの冷たさは感じられない。
アウラ
「……」小さく頷いて
ルトヴィーク
じいっとアウラを見上げながら、無言で視線を向け続ける。向く先は服装であったり髪であったりで、うろうろと視線を彷徨わせる。
アウラ
「…どうされました?」
ルトヴィーク
「普段と、何か違う気がした」
アウラ
「ああ…」一回手を離して 白いポンポンがついた青い帽子をとって ルトヴィークに被せて見せる 「今日の正装、といったところでしょうか」 再び、手を握って
「聖人の服装だったそうですわ。それを模しているものなのです。本来は赤なのですが、赤はライフォス神殿の方々の服ですわね」
ルトヴィーク
「ん」 帽子を被されると、長い前髪もともなって目元を隠して
「……」 手を握り直しながら 「赤もいいけど、青が良い」
アウラ
「……」くすくすと笑って 「似合ってます」 ルトヴィークの帽子に笑って
ルトヴィーク
む、と口元だけ結ぶものだから、やけに不満そうな聖人の仮装が出来上がる。
アウラ
「そんな顔をしては…‥ふふ、いけませんわ」 
ルトヴィーク
「……なにが」
アウラ
「……ごめんなさい、格好と表情のギャップが…」 笑みを抑えて
ルトヴィーク
「性悪……」 言いながら、外すよりは手を結ぶ方を優先して
「なあ」 髪の隙間から、しっかりとアウラの眼に視線を向けて
アウラ
「お似合いですと言った言葉に嘘はないですのに……はい」 
ルトヴィーク
「あんたの、……アウローラの事を、知りたい」
「……性悪で、煩くて、強引でお節介で脚が遅い、だけじゃない事を」
アウラ
「……ええ。いいでしょう」
「私も知りたいことがありますわ」
ルトヴィーク
「あんたも? なら、俺じゃない奴に聞いた方がいい」
アウラ
「私もルトヴィークの事が知りたいです」
「貴方の、過去も、今も」
ルトヴィーク
「……」 名指しにされると間の抜けた表情をして
逡巡して、小さく唸りながら表情を伺う。
アウラ
「……貴方が貴方である事からは逃げられません」
「ですが、分かち合う事は出来ますわ」
半ば、自分に言い聞かせるような声音で
ルトヴィーク
表情を伺いながら、暫し間を置いて
「あんたには、……昔の事は、言いたくないな」 
アウラ
「……どうしてですか?」
ルトヴィーク
「嫌な顔をするだろうから」 目を伏せて、手から力を抜く。
アウラ
「……しません」 力が抜かれた手を握り直して
「表情には出しませんわ……心の中でどう感じるかは、許してくださいね」
ルトヴィーク
「……普段の顔が良いから、嫌だな」
アウラ
「……」 諦めた表情を作って
「……話したいと思ったら、その時にお伺いしましょう」
「私の事、ですわね」
ルトヴィーク
視線を上げて、表情が変わっていれば微かに肩を落として
アウラ
「残念に思うのも許してくださいな」 困ったような笑みを浮かべて
ルトヴィーク
「面白い話じゃないから」 首を横に振って、手を引いてみせる。その表情をやめろ、とばかりに。
アウラ
「……あなたを知る良い機会だと思ったのですから」 
空いた手を自分の胸元に持って行って
「…では、私の話を」
アウラ
あ、自分の手ですわ<空いた手
ルトヴィーク
「……」 「いいの?」
ルトヴィーク
うん、大丈夫
アウラ
「交換条件という訳ではありませんから」
「私は、オルトラント地方出身で」
ルトヴィーク
「ん、……わかった」 見上げて来る眼は、普段とは異なり興味の色が灯っている。
ルトヴィーク
と、時間は大丈夫? 昼から卓なら分割するでも大丈夫だけど
アウラ
あら、希望は出されていませんでしたか
ルトヴィーク
ああ、うん。足りてるみたいだし、夕方が少し怪しいから
出る予定はなかったんだけど入りそう。
アウラ
「リアンの東ですわね。そこのヴェイルーン王国と呼ばれる場所の出身なのです」
ルトヴィーク
「オルトラント……」 記憶にはない。が、記憶を辿る為ではなく、記憶に残す為に口にする。
アウラ
アウラは語りだす。自分の過去を追想するように、夜空を見つめながら
アウラ
というところで一度切っておきましょう
ルトヴィーク
わかった。じゃあ、またどこかで。
アウラ
ええ
お付き合いありがとうございました
では、失礼いたします
ルトヴィーク
ん、ありがとう。それじゃあ
アウラ
)))
ルトヴィーク
)))
SYSTEM
ルトヴィークが退室しました。
SYSTEM
アウラが退室しました。
SYSTEM
ルトヴィークが入室しました。
SYSTEM
アウラが入室しました。
アウラ
はい
ルトヴィーク
うん
アウラ
では特に場面を切り替える必要もありませんし
このまま語りますわね
ルトヴィーク
ん。
アウラ
「私の家は貴族の家柄と申しましょうか」 静かに、続けて
「デーニッツ子爵家…私はそこの次女、5番目の子どもとして生を受けました。全部で7人きょうだいで、兄が3人、姉が1人、弟と妹が1人ずつおります」
ルトヴィーク
「……7人」 少し驚いた様に声色が変わる。
アウラ
「全員が全員、同じ母親から生まれたわけではありませんわ」 少し笑って
ルトヴィーク
その言葉には頷きながら 心中で、そこはうちと同じか、と呟く。
アウラ
「私は13歳まで王都ですごして、14歳から寄宿舎学校に入れられました」
ルトヴィーク
「……」 首を傾げて
「きしゅく……? なに?」
アウラ
「学校に入るまでは主に家庭教師から色んなものを教えて頂いて、暇があれば野山に行けるように画策しては怒られてましたわね」
「寄宿舎学校。生徒を預かって寝食の面倒を見ながら学ばせる学校の事です」
ルトヴィーク
「……」 文字通り住む世界が違ったのだろう、とぼんやり考えながら 「何で怒られたんだ?」 >野山
アウラ
「あまり街の外に出る事は、褒められたことではないのはリアンもオルトラントも同じなのです」
「その時は、女神の奇跡も使えませんでしたし、文字通り無力な子どもだったのです」
ルトヴィーク
「危ないのに、言いつけも守らない――」 目を見て、呆れたように
「なら、怒られる」 頷いて
アウラ
「ええ。ですから、規律も規則も厳しい学校に入れられてしまいましたわ」 ふふ、と笑って
「自然の多い場所だったのですが、監督生と呼ばれるまあ、先生方の子分みたいな立場の方々にはよく目を付けられてしまいましたわね」
ルトヴィーク
「……当然だ。貴族のヤツを預かってるのに、そんな事ばかりされていたら」
アウラ
「これでもちゃんと授業には出ていましたし、成績は悪くなかったのですわよ?」 素行に問題はありましたが、とまた笑って
ルトヴィーク
「いつか、……」 死ぬかもしれないんだから、と続けようとして、それを呑み込み 手を握る力を強める。
アウラ
「ただ、窮屈でした。本当に本当に窮屈になっていったので、嫌だなぁと思っていたら……女神の声を聴いたのです」
ルトヴィーク
「窮屈。……何て言われたんだ?」
アウラ
「"汝束縛するなかれ。汝束縛されるなかれ"と」
「前者はともかくとして後者は納得がいく言葉でしたし…元々信者でしたから。初めて奇跡を使う時は胸が高鳴りましたが、」
「使えると分かった時は」
「もう、ここを出て行けるのだという事しか頭にありませんでした」
ルトヴィーク
「アウローラは」
「……強いな」 14やそこらで、独りで抜け出て行ける、行こうと思える事自体に少し驚いた。
アウラ
「それからは最初の冒険でしたわ」 思い出したようにくすくす笑って 
「ヴェイルーンは氷晶海と呼ばれる湖に囲まれているので、船が無いと外には出られないのですが」
続けようとして 「つよい…というのは、少し違うかもしれませんわね」
ルトヴィーク
「……なんでだ?」
アウラ
「私はただ、嫌なものは嫌と思って逃げ出しただけですから」 それに対する引け目や後悔などは微塵もないと言った様子ではあるが、そう続けて
ルトヴィーク
握る力がまた強められて
アウラ
「ルトヴィーク…?」
ルトヴィーク
「それが、俺には」 目を逸らして
「凄く、強い事だと思える」 息を吐き出しながら、ゆっくりと視線を戻す。 「……、続きを聞きたい」
アウラ
もう片手で手の甲を撫でてやってから
「氷晶海を越える為に、船に密航したのです」
ルトヴィーク
「密航」 スケールの大きな"旅"をしてきたんだな、と眼を丸め
アウラ
「貨物に紛れて、上手くタイミングを計って…南に抜けてから装飾品の類を手放して、制服を処分して」
「旅費を作ったら次はキャラバンと交渉して西へ西へと。スフェンを超えたあたりからはもう、既に冒険者の気持ちでした」 ふふ、と笑って
「安物でしたがリラを頂いて、それを演奏しながら…最初の旅をこなして。それからイルスファールへとやってきたのですわ」
ルトヴィーク
「リラ……?」 首を傾げながら 「楽器、か?」
アウラ
「はい。弦楽器です」
「指や爪で弦を鳴らすものですわね」
ルトヴィーク
「じゃあ、いつものとは別か。……追手はなかったのか、家から」
アウラ
「あると思ったから地方を越えて来たのですわ」よくぞ聞いてくれました、と
「当時は、髪も腰までの長いものでしたが」
「思い切って切りました」
ルトヴィーク
「……」 その言葉に、髪に視線を向ける。
アウラ
今はショートカットと言っていいほどの長さで、それ以後もずっと髪は短めにしているのだろう
「それが功を奏した…のかは定かではありませんが、今のところ追っては来ていませんわね」
「通り名も神殿でもアウラで通していますし」
ルトヴィーク
「そうするくらい、帰りたくなかったのか」
「ん、……なら、呼ばない方がいいのか」 アウローラとは。
アウラ
「いいえ、ルトヴィーク。アウローラという名前は、まあこの前自分でも口にしてしまいましたが…今のところ貴方にしか明かしていませんから」
「戻ったところで、学校を出たらお見合いをして、結婚して、子供を産んで母となって‥という道筋が見えてましたし」
「婚約者候補は既に何人か挙がっていましたから」
ルトヴィーク
「けど、」 いいえ、と切り出したアウラに首を横に振って
「もし、それで見つかる事になったら、どうするんだ」
アウラ
「今更戻りません。余程の事がない限りは」
「親の庇護がなくとも、生きていけますから……それに、こちらの方が楽しいですから」
ルトヴィーク
「追手が来るかもしれない。……〈星の標〉(みせ)にも、ここにも」
アウラ
「別に暴力的な手段を取られるとは思っていませんし、話し合いで負けるつもりもありません」
「まあ何か特別な理由があれば追い返しやすい。くらいでしょうか」
ルトヴィーク
「……」 この女は、本当に。本当に強いな。
「仕事中は、やめておく」 暫し間を置いてから、首を横に振って見せて
アウラ
「…では仕事中は、アウラと呼んでくださいますか?」
ルトヴィーク
「それは、覚えてたら」 
アウラ
「アウラ。アウローラよりも短いですわ」
言って見せてと繰り返して微笑む
ルトヴィーク
空色の眼を見上げると、本人も無自覚の内に目の色を変える。羨望の色を灯しながら、溜息を吐いて
「……アウラ」 満足か、とばかりに、少し恨めしそうに
アウラ
「はい」 嬉しそうに見つめて
呼びかけに返事をする
ルトヴィーク
「不安じゃなかったのか」 独りで、こんなところまで。
アウラ
「独りではありませんでしたから」
ルトヴィーク
「……? ほかにも、誰かいたのか?」 さっきの話では独りだと思っていたけれど
アウラ
「女神が見てくれている。と明確に感じられましたから」
「それに、キャラバンの方々も悪い人ではありませんでしたし」
ルトヴィーク
「それは、運が良かっただけだ」 後者には首を横に振って
アウラ
「王都に出れば、アステリアの神殿もありました」
「ええ、運はそれ程悪くない様です」 また笑って
ルトヴィーク
笑顔を浮かべられれば、少しやりにくそうに言葉を詰まらせながら
それでいて、安堵したように眼を細める。
アウラ
「不安よりも」
「抜け出せるという事に対しての希望の方が強かったですから」
「楽しかったですわ。良い経験になりました」
ルトヴィーク
「……希望」
「って、何」
アウラ
「これから良い事があるという期待、と言いましょうか」
「こうしたい、ああしたい。これもできる、あれもできる」
「そうした良い事に対する期待、望み……それを一言で表すと、希望、になるのではないでしょうか」
「ルトヴィークには、何かありますか?」
ルトヴィーク
少し俯いて、アウラの語った言葉を反芻する。
「……知らない。無い、と思う」 暫く考えて、俯いたまま答える。小さく肩を落として、緩く首を横に振りながら、手から力を抜く。
アウラ
「では」
「作りましょう」 こちらから手を握って
「これからの目標、目的、やりたいことを」
「それが希望になりますわ」
ルトヴィーク
「仕事なら。他は……すぐには、浮かばない」
言いながら、何かそういうものがあったかどうかを考えて
やはり、これを……というものが見つからずに、首を横に振って
アウラ
「…では、見つけられるまで」
「しばらく、色んなところに行ってみましょうか」
ルトヴィーク
「色んな所?」 
アウラ
「はい。イルスファールも広いですわ」
「ユディスはこの前行ったので…最後にするとして」
「ダイアン、ファティマ、デライラ、ヴァンス、ドラス、ジョナス」
「ラプラスも良いですわね」
ルトヴィーク
――、」 ユディスの名を出されると、明確に手に力を込めて
「……ああ」 思い出した様に
「あったな、やりたいこと」
アウラ
「……教えて頂けますか」
ルトヴィーク
「オーロラを、いつか見たい」
「そんな事、前話してたろ」
アウラ
「……はい」 手を握り返して 
「いつ切り出してくれるか、と。覚えて下さっているか……気になってはいましたが」
「ここからオーロラを見に行くのは少し大変ですが」
ルトヴィーク
「……」 その言葉には、すこしバツが悪そうに視線を逸らす。
アウラ
「必ず、行きましょう」
「それはそれとして」
「各地を巡るのは良い提案だと思うのですが」
ルトヴィーク
「……いつ、どこで、どうやって見るのか、解らないけど。……うん」 必ず、と言ったアウラへの返事をしながら
「? 行きたいのか?」
アウラ
「ちょうど巡業もしないといけませんし、」
「お店を経由して指名依頼とさせていただくことも出来るでしょう」
「報酬は安いでしょうけれど、護衛として」
ルトヴィーク
「……?」 首を傾げて
アウラ
「行きたいという希望もありますが、」
ルトヴィーク
「どういう……?」 珍しく困り顔を浮かべながら見上げて
アウラ
「私はここの司祭位なので」
「そうした仕事も回ってくるのですわ」
「お付き合いくださるわよね?」
ルトヴィーク
反射的に開いた口をゆっくりと閉じて、
言葉を選ぼうとして、それも面倒になったのか首を横に振る。
「……ああ。アウローラが、俺を呼ぶなら」 しっかりと眼を合わせて、手を引きながら、そう頷いた。
アウラ
「こういう特権くらいは、行使させて頂かないと割に合いませんもの」
ルトヴィーク
「割に?」
アウラ
「ええ…お呼びいたしましょう」 ふふ、と笑って
「司祭位というのも、面倒なものです」 困ったように
ルトヴィーク
「なら、また密航するか」 表情はぴくりとも動かないまま、そんな冗談を
アウラ
「そうですわね……」少し考えて いたずらっ子の笑みを浮かべて 「その時は一緒に来てくださいますか?」
ルトヴィーク
「……さっきの返事と、同じだ」 ほんの少し、微笑みとも呼べない程度に口角を動かして
「俺でいいなら、ね」
アウラ
「‥‥」 その表情の変化に目を細めて
「そうならない様に、不満は解消していかないといけませんわね」
「讃美歌でよろしければ、歌いたいところなのですが」
「いかがでしょう?」 と手に力を込めて
ルトヴィーク
「……サンビカ、ってなに」 
アウラ
「神に感謝と喜びを伝える歌です」
「ちょうど、先ほど合唱をしてきたのですが」
ルトヴィーク
「……喜んでるのか?」 感謝はともかく。
アウラ
「あまり練習してない独唱の方を……生きている喜びですわ、ルトヴィーク」
ルトヴィーク
「……」 生きている事自体に喜んだ覚えはない。歌への興味を抱きながら、そんな者が聞いていてもいいものか、と少し考える。
アウラ
「……私は喜んでいますのよ」
ルトヴィーク
思案を続けている処にかけられた言葉に、視線を合わせて
アウラ
「貴方が生きていてくれて。何も、自分が生きている事だけを喜ぶことはないのですわ」 悩むようなそぶりを見せるルトヴィークに 
ルトヴィーク
――、」 ぐ、と眼を見開いて 鉄色の眼に、明確な恐怖が灯る。
アウラ
「…ルトヴィーク?」
ルトヴィーク
繋いでいた手を抜け出す様に払って、唇を噛む。噛み締める歯はその唇を深く切り付けていき、深い傷口からは血を溢れさせていく。
アウラ
「……っ」 急な変化に驚きを見せるも すぐに白いハンカチを取り出して
ルトヴィーク
口は開かずに、制止をかけるように左腕を突き出して 「……それは、"嫌"だから」
アウラ
「……」 当てようとした手が止まる
ルトヴィーク
「サンビカはやめて」 突き放す様な声色ではなく、頼み込む様に絞り出して
アウラ
「……分かりました」
「分かりましたから…自分を傷つけるのはおやめなさい」
ルトヴィーク
口元の血は、煩わしそうに手の甲で雑に拭い 言葉に詰まらせながら、叱られると理解している犬の様に、恐る恐る目を向ける。
アウラ
「…‥まったく」 困った人です、と 少し叱るような口振りで 「触りますわよ」
裂けた唇に指を当てる 「寛容なる女神アステリアよ、癒しの奇跡をここに」
ルトヴィーク
「……」 少し肩を落としながら頷いて目を伏せて、そのまま身を任せる。
アウラ
あたたかな光が指から滲んで ルトヴィークを包むと 唇の傷が塞がる
ルトヴィーク
どう言葉を選べばいいのか、思いつかない。視線の色は変わらずに、じっとアウラを眺め
アウラ
「……では、リクエストはありますか」 話題を変えるように もう怒ってない事を示すように
ふんわりと笑って見せて
ルトヴィーク
「……、まえの」 「空地で聞いたやつ」
アウラ
「では、眠ってしまわない様にしてください」 「触りますわよ」
再び、手を握って
ルトヴィーク
恐る恐る、それを握り返し ぎこちなく頷いた。
アウラ
きゅ、と一瞬力を込めると微笑んで見せて 「暖かいですわ」
ルトヴィーク
その手に安堵したように息を吐き、言葉にもせずに腕の中に寄せようと力を籠めて手を引く。
アウラ
「ルトヴィーク」名前を呼んで 「そうされると歌えませんわ」
ルトヴィーク
「少しだけ」 一言だけ返して、数秒その姿勢のままでいて
――、」 10も数える前に、手を放す。
アウラ
「……」 困った人です 離された自分の手を自分の胸に当てて
「では」
「──ヴァ・アール テ・ノーラ……」 優しい声音で、ただ声は歌声にしては顰められて、囁くような歌い方で
ルトヴィークのためだけに、歌われている(こえ)
ルトヴィーク
歌う少女と手を結びながら、俯いて目を伏せる。
神殿の傍という事もあり、その様子は救いを求める様に傅く男と、その手を取り歌う聖女の様に映る事だろう。
アウラ
私からはここまでで大丈夫です
ルトヴィーク
――、……」 歌を聴きながら、ぼんやりと。
いつかこの歌を聴く事も無くなるのだろうと思い至ると、深く刻み込む様に聞き入った。
ルトヴィーク
俺もここで大丈夫。
 
聖なる夜は こうして更けていく
活気も、あたたかな光も 次第に薄まって
いつもの夜と、変わらぬように
アウラ
では、お付き合いありがとうございました
ルトヴィーク
うん、お疲れ様。
アウラ
またお会いしましょう
)))
ルトヴィーク
)))
SYSTEM
アウラが退室しました。
SYSTEM
ルトヴィークが退室しました。
背景
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