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コモンルーム[W]

20191215W_0

SYSTEM
メルクが入室しました。
SYSTEM
ネーベルが入室しました。
ネーベル
https://sw.tale.blue/chat/?mode=logs&log=20191204W_0 前回分はこちらね。
メルク
ありがとう、ネーベル
一旦回想を終えて 視点を星の標に戻すか
それとも、あの後の続きを直接やるかだけれど
どちらがいいかな。ネーベル
ネーベル
そうね……
一度戻りましょうか。間を挟むなら、良い区切りだもの。
メルク
分かった、そうしよう
じゃあ、始めるよ
 
 
 
 
 
 
 
ネーベル
ええ、お願い。
 
リアン地方、イルスファール王国 〈星の標〉
ここは国内でも有数の冒険者ギルド支店であり、様々な冒険者を揃える名店だ
とはいっても、客入りや人の出入りは激しく。雨である今日はとても閑散としている そんな午後
窓際のテーブル席で 二人の男女がお茶を挟んで座っている
メルク
「……あの時は、本当にどうしようかと思いました」 滔々と過去を語り、そして一度瞑目するのは、ジャケットにシャツ、チェックのズボンに革靴の濃い藍色の髪をした少年だ
「……軍を辞めてあの国でやっていくには、僕は人が良すぎたのかもしれませんね」 苦笑を浮かべて目を開いて 青い瞳が対面の少女を映す
ネーベル
「……」 初耳であったことがないではない。話を聞いて、ああ、と心中で呟くのは、少年の対面の席に座っている少女だ。長い銀髪を纏め、古典的なメイド服を纏っており、浮いて見える事は間違いない。
「人が良過ぎた、ね。……」 思う所があるのか、繰り返して 「幼かった、のではなくて?」
メルク
「…それもあると思います」困ったように笑って
「今でも、大人になったとは思えませんし……」
ネーベル
その様子を、伽藍洞の様な瞳が見据える。揺れる事もなく、じっと。
「そうね。……大人になりたい?」
メルク
「……なれたら良いなと思います。良い、大人に」
ネーベル
「なら、」 なれたらと語るメルクに、目元の傷を示す様に口を開こうとして
良い、と付け加えられたのを見て、示す手を下ろした。
メルク
「そうしたら…君を、しっかりと守れると思うから」
その目元の傷を見て、極力表情を変えないように努める
ネーベル
「……ばかね。盗んだ手前、そんな事を言うなんて」 表情は一つも変えずに、けれど僅かに、極々僅かに
その声色は刺々しく。その瞳は冷たさを見せた。
メルク
「……そう、ですね。そうでした」
ネーベル
「私の眼には変わらないわ。も、あなたも」
メルク
「……そうですか」
ネーベル
変わらない、と語る直前、視線を机に落とし
一つ、溜息を吐いて
「……けれど、随分と無茶をしたものね」
メルク
「…無茶だったことは、否定しません」
「ただ、あの場で動かなかったら、僕は僕を許せなかった」
「それだけなんです。ネーベル」
ネーベル
「……もし、私以外であったなら」
「連れ出して――、今になってまで、こんな思いをすることもなかったでしょうに」
メルク
「それは、わかりませんよ」 沈みがちだった表情に、ふと笑みを載せて
「僕が連れ出したのは、ネーベルだけですから」
ネーベル
返事をしようとして、口を開いて
――、」 その笑みに、言葉を奪われた様に小さく唸り
「本当に……ばかなひと(マスター)ね」
メルク
「……」困ったような表情で 唸ったネーベルを見つめて 「それは否定できませんね」 小さく笑った
ネーベル
「させないもの、そんな事」 「――……彼らと、その後は?」
メルク
「あの後は………」 再び雨粒が窓を叩く方を見て ゆっくりと過去を思い出す
メルク
それじゃあ、回想に戻るよ
ネーベル
目を伏せて、頷いて
つい昨日の事の様に、情景を呼び覚ます。
ネーベル
いいわ。
 
 
 
 
 
 
ネーベル
と、私から再開させましょうか。
 
屋敷に到着したメルク達をメイドが迎え入れ、大広間へと迎え入れる
ぎ、と音を立てて開いた扉の奥に見えるものは、痩せこけたこの館の主と――
その腕の中で主からの寵愛を受ける、長い髪を持った、同じ顔の人形たちの中でも一際美しく造られたメイドの姿だった。
メルク
おっと、前回のを引っ張り出そうとしたけれど
ネーベル
ん。助かるわ。
メルク
ここからはおまかせするね
 
 
大広間には、入り口から正面に豪勢な長机がひとつ。椅子の類はひとつもなく、客人を招く様子は欠片もない。
それを挟んで、幅の広い、ゆったりとしたソファが設置されている。人が3人は少なくとも座れる程度の幅だ。
机の上には食品が並べられており、それぞれの傍らにはやはり同じ顔のメイドが、配膳の為か控えている。
しかし、それぞれの料理は手を付けられている様子は無く、食器についても使った形跡は感じられない。
 
広いソファに腰かける内の一人が、痩せこけた男だ。年の頃は四、五十というくらいか。
種族は人間の様に見える。その瞳は周囲を強く敵視しているのか、刺々しく冒険者一行を見据えている。
身なりはメイド達が整えたのだろうか。小綺麗にまとまってはいるが、血色は良くはない。只管神経質の様な印象を与える男だった。
メイド
その男に腰を抱かれ、手にした鎖と首輪で繋げられているメイドは、やはり周囲のメイドと同じ顔を持った少女だ。
ただ、その他とは異なるのは――よくよく見れば、より整った顔立ちである、という事か。
絹糸の様な銀髪は、男の手によって握り締められており。強い執着の様なものを感じられる。
その貌が、冒険者一行へと向けられる。傷や肌の荒れなどは欠片もない、人形の様な、造り物の様な貌は、どこか冷たく感じられる。
 
 
――も。もど、ったか」 嗄れ声でそう問うと、手元にいた少女の髪から手を離し、鎖をソファに放る。
魔法使い
「──只今戻りました」 その表情を読み取ったのか、やや芝居がかかる程にうやうやしく一礼する
メイド
少女はそれが当然の様に、放られたまま、ソファへと横たわっている。
軽戦士
――……」 うへえ、気持ち悪ぃ。表情からそう読み取れる程度に悪い態度でリーダーへと続いて
メルク
「──、」にん、ぎょう…? そう思えるほどの容貌に目を瞠って
そしてそう思うのは彼女の扱いを見て、人と思い至る事を脳が拒否したためだろう
メイド
少女は、やがてその身を起こして 控える様に席を立とうとして
――ッ」 息を荒くした主にその鎖を引かれる。小さな体は強かにソファへと叩きつけられ、また動きを止める。
メルク
「──っ」息を呑んで
「……で、……で。どう、だったんだ。結果は」 ふう、と息を荒く吐いて、リーダーへと視線を向ける。
メルク
やはり、人だったのだ…
魔法使い
「──メルクーア君」 やや苛立ちが混じった声で、リーダーはメルクの名を呼んだ 機嫌を損ねたらどうすると言いたげに
縫い留める様に、倒れ込んだ少女の脚を踏み その場に圧し留める。
魔法使い
「ご安心下さい。こちらにご用意ができております」 うやうやしく、猫撫声すれすれの声音で
ふい、と手で示してみれば、配膳の為に控えていた個体が動き始め
 
一行は、主の眼前へと導かれる。
ネーベル
と。名前を違えていたわね。拳闘士よ。
メルク
うん。大丈夫だよ
神官
務めて主の機嫌を削がぬよう、笑顔を浮かべながらも
魔法使い
「こちらの箱に入っております。この場でご確認されますか」
神官
嫌悪感を覚えながら、しかしこれも金の為であるからと。口を開く事はしない。
「あ、あ。出せ、出してみろ」 言いながら鎖を手繰り寄せると、ソファの少女を示す。これに使う、とでも言いたげに。
魔法使い
「床に置きなさい」 メルクに指示して 拳闘士に蓋を開くことを更に指示する
メルク
「……」この人は、いやこの人達は‥
箱を床に置きつつも、ふつふつと湧き上がるものを感じて
拳闘士
「はいよ――っと」 違う違う 「了解! ………」 元気よく答えて、床に置かれた箱の蓋を、躊躇わずに開き
「こちらに!」 少し大仰に示す。
「……おい、何て表情してんだよ。ここまでくらい、しっかり付き合ってくれよ?」 メルクに聞こえるよう、耳打ちして
小さくその背中を叩く。
メルク
「……」背を叩かれて、俯く
魔法使い
「お確かめ下さい」
拳闘士
俯いた様子を見て、どうするよリーダー……とばかりに肩を竦めて
促されると、その中身を手に取って
魔法使い
放っておけ、とばかりに首を軽く振って
「ふ、ふむ、ふむ」 喉を鳴らしながら広げて
メルク
「……聴かせて下さい。それを使って」 手にとった主に 声をかける
「…一体何をするつもりなんですか」
下卑た笑みを浮かべ―― 「……な、ん、何だ」 嗄れ声で言いながらメルクを睨み
魔法使い
「……」舌打ちをしたげな表情を浮かべて 拳闘士にあごをしゃくる
拳闘士
ち、と舌打ちを一つして
魔法使い
「──失礼しました。何分若いもので」
拳闘士
「おい……!」 何のつもりだと言わんばかりにメルクの肩を掴み、主からは見えぬ位置に引こうと力を籠める。
「……は。お、まえらは金さえ受け取って、言う通りにすればいい」 気分を悪くしたのか、少し語調を強めてメルクに言い放ち
メルク
「……」ぐ、と引き込まれる事はない。膂力はこの年にしては強い方なのもあるが、守りを主体とした戦士であるためか、姿勢を崩すことはなく
そのまま、隣の少女の鎖を短く持って引き寄せ、首輪そのものを掴むと、示す様に乱暴に、乱雑に振って
メルク
「……──要らない」
癇癪を起こしたように、ソファではなく、そのまま床へ少女を叩きつける。
メルク
拳闘士の手を振り払うと
そのまま主に向かって拳を固めて叩きつける
メイド
床に叩きつけられると、くぐもった声を一つだけ漏らして 身体が反射的に咳き込めば、それを理性的に圧し留めようと息を殺す。
「ぶ、ッ――!?」 痩せこけた男は、護り手として鍛えられているメルクの拳を避ける事は叶わなかったが、
怯みながらも、反射的に手に持った首輪をメルクへと向けた
魔法使い
「な──、ご、ゴーレム!彼を守れ!!」 泡を食ったように指示を飛ばして
当然、その首輪を纏っている小柄な体もそれに引き上げられ、メルクと主との合間に挟み込まれる。
拳闘士
「て、んめえっ……!」 ぐ、と拳を握るが、獲物を準備していた訳でもない。館に入るに際して、獲物は荷に収めている。
素手の拳を振り上げ、そのままメルクへと振り下ろす。
メルク
「……」少女を抱きとめ その身をかばい 腕で拳闘士の一撃をカバーする 武器はないが 鎧を着込んでいるためか ガントレットがそれを受け止める結果になる
メイド
――、」 咳を押し殺す内、掲げられ 呼吸もままならず、反射的に抱き留めてきた相手へとしな垂れかかる。
「は、はな、離せッ……!」 人形を抱き留めた男を睨みつけながら、その手を引くが――無論、メルクの腕力には遠く及ばない。
メルク
「──いやだ」 怒りが抑えきれない 髪が藍色から白へと 瞳の色が青から赤へと 額からは一本の角が伸びて 
拳闘士
「づっ――」 素手で鎧を殴りつける結果となり、顔を歪め 「てめえ、この人数で何か出来ると思ってんのか! ヒーロー気取りも大概にしやがれ!」
メルク
「ヒーローなんかじゃない」鎖を引き、それを持ったままのを引っ張る
「これ以上こちらになにかしようとすれば、この人がどうなっても知らない……」引き寄せた主の首に手を回して 盾にする
「な、はなっ……せ!」 がしゃり、と首輪をまた引き込み、少女の顔の右半分を覆う。自然、少女の首は締まり――同時に、掴むというよりは爪を立てる様に、少女の顔が掴まれる。
メルク
「──っ」 ごん、と主に頭突きを加えて
メイド
頭突きをする直前、メルクと眼を合わせた少女の表情が歪む。首が締まり、呼吸が出来ないせいだろうか。
決して良い表情ではないが――しかし、人形のそれではない表情だった。
メルク
「……っ」 主を突き飛ばして首輪を掴む手を離させ 少女を抱え込むように窓へと走った
頭突きを加えられた男は、ぐらりとその身体を揺らして メルクが手を離させる際に
強い執着があったのだろう。その爪で、少女の顔を裂いた。
神官
「リ、リーダー! これは――!?」 どうしますか、と指示を仰ぐ様に
魔法使い
「──逃がすな!」拳闘士に声をかけて 「君は依頼人の傷の手当をっ」
メイド
少女の身体は酷く軽い。小柄であること、またメルクが鍛えているからという事を除いても、あまりにも軽い。
拳闘士
「くそが……!」 その騒動の最中、獲物を取り出し 指示に頷いて駆け出し、メルクを追う。
メルク
「おおおおっ!」 気合を込めて 片手で少女を抱え込むようにして腕から 窓に飛び込む
男はぐったりとしながら、ソファに倒れ込んだが――
 
周囲のメイド達は、動こうともしない。ただ指示を待つ機会の様に、じっとしているのだ。
がしゃん、と音を響かせて、メルクが窓へと飛び込むと
二階程の高さがあるその窓から落ち込むのであれば、強い衝撃が間も無く訪れる事は想像に難くない。
メルク
少女をかばいながら 落下して 受け身を取る 「──っ」 すぐさま起き上がり
拳闘士
――っ、野郎!」 窓から見下ろすと、少し躊躇ったが
メルク
少女の無事を確認する
拳闘士
リーダーへと一瞥する。追うか、と言いたげだ。
メルク
その躊躇がメルクにとっての好機だった
メイド
けほ、と腕の中で咳き込み、目尻には生理的なものだろうか。涙を浮かべて 少し潤んだ瞳が、メルクを映した。
メルク
庭の整備に使われていたであろうレンガの一つをとっさに掴むと拳闘士の頭めがけて投げつける
メイド
右眼の下には、縦にいくつもの傷が入っており その貌は、穢されているが。
拳闘士
「今なら追えっ――ご、っ」 視線を逸らしてしまった事が災いしたのだろう、それを躱す事は出来ず
視線を戻した直後、正面からそのレンガを受け止めて 仰向けに倒れ込む。
魔法使い
「ええいっ、指示待ちが!!」
メルク
「…・よし」頷いてから 「ここは危ないです。移動を──」 少女の顔を見て、一瞬怯んだような表情を見せて
神官
その声にびくりと震えながら、主を治癒し メイド達が一切の動きを見せない事に、やはり戸惑いを浮かべている。
メイド
――……」 メルクの眼を見据えて 「あなたは」
メルク
「……一緒に、行きましょう」ハンカチを取り出して、引っかき傷の血を拭ってやり、そのまま握らせる 「僕はメルクーア」
メイド
「ご自身が、何をされているのか、お分かりですか」 真白い肌を鮮血が伝い、目元から頬を落ちて行く。
名乗りには質問を返して けれど、その手から逃れようともしない。
メルク
「いいから…」 異貌したままの姿をそのままに 手を引いて
メイド
――……」 引かれた手を、一度だけ躊躇って
メルク
「ここに居ては、危ないです」 諭すようにいうと 首を巡らせる
メイド
「私は、マスターの所有物です」 
短く言って 「マスターのお傍に、私は在らなければなりません」
 
――屋敷が、ざわめき立つ。主から、何か指示があったのだろうか。
メルク
「……」呆気にとられて 「……馬か何かありませんか」
メイド
「メルクーア様、繰り返しますが」 「私は、マスターの所有物です。そのお傍に在らなければなりません」
メルク
「わかりました……」両肩を掴んでメイドを見つめる 「もし、貴方にマスターが必要だというのなら……」
「僕がなります……だからここから離れて下さい」
メイド
――……」 有り得ない。私のマスターは存命である。
「既に、私のマスターは存在します。彼の屋敷に」 屋敷を示して 「ですので――」 機械的に、繰り返す。
メルク
「……」 返事を待たずに 少女の手を引いて走り出す
メイド
「私は、――……」 手を引かれ、反射的に振り払おうと力を籠めるが、それよりも遥かに手を引く力の方が勝っている。
メルク
「僕は貴方の名前も知りません。どう思っていらっしゃるかも、把握しきれてはいません」
「嫌がっているのもわかります。ただ、あのままじゃ」
メイド
その言葉に耳を傾けつつ、手を引かれながら共に駆ける
メルク
「あのままの貴方を…僕は放っておきたくないんです」
「厩はありませんか。このまま街に戻って、それから港に行きます」
メイド
――、」 何故駆けているのか。心中で疑問に思いながらも、その脚は止まらない。理由など、全く解らない。
メルク
この国で商人と軍人相手に手を出すということは二度と日の目を見れないということと変わりない
メイド
――あちらに、メルクーア」 小さく、方角を示した。
メルク
「ありがとうございます」 頷いて 必死に走っていく
厩に辿り着くと 一頭を拝借して少女を自分の前に乗せる
メイド
ぐるぐると、心中では解決の出来ない疑問が巡っている。けれど、それを払う様に駆けて行く。
確かに、少年の手を握り直しながら。
メルク
「よく掴まってて下さい」
メイド
その言葉には返事をせず、その手についていく。
メルク
「よし、こいつにしよう」 厩で一頭の馬を確認して まず少女を乗せる
メイド
乗せられれば、ふらりと身体を揺らして すぐに持ち直し
――……あなたは」
メルク
「…‥分かっています。馬はギルドに返却します」
これが紛れもない窃盗であることは自覚した上で
少年は少女の後ろから馬に跨った
メイド
「馬、だけではありません。ご自身のなさっている事は――紛れもない窃盗です」
「その罪を、ご理解された上で……私を持ち出そうと、今もお思いですか」
メルク
「──、押し付けてることは分かっています」
「ただ、先程も言いましたけれど」
「貴方を放っておきたくないんです」
「──行きます」
メイド
「お待ちください」
手綱を掴んだメルクの右手に、自身の右手を重ね
馬上で振り向き、視線を合わせて
――ネーベル。あなたの背負う、罪の名です」 表情を一つも変えずに言い切った。
メルク
「……」止められて、戸惑うように 「──ネーベルさん、ですね」
「……改めて、行きます」
メイド
それきり、姿勢を戻して 
メルク
手綱を握る手に力を込めて
「やっ!」
メイド
――……」 視線だけ、屋敷へと向けて それを閉じ
ネーベル
メルクの腕の中に、その身を委ねた。
メルク
屋敷を抜けてロッカーラの街を目指す
その後は、早かった タッチの差と言っても良い 伝書鳩が届くよりも早くに冒険者の店へと戻り
少ない荷物と財産をまとめて、港を目指す
レストリノ王国行きの商船へと便乗すると
ようやく、一呼吸つけるようになった
大型の帆船、商船と客船を兼ねるその船の3等室の乗員になりつつ
メルクは、甲板で小さくなっていくロッカーラの街並みを見つめていた
ネーベル
手当てを受け、既に止血の済んだ傷跡を一つ撫ぜて その背に声をかける。
「……何か」
メルク
「……ああ、ネーベルさん」
「……すみません、勝手に抜けてきてしまって」放っておいたわけじゃないのだが、結果的にそうなってしまった
「傷のお加減はどうですか」
ネーベル
深々とお辞儀をして
「謝られる事など。私はただの物、ですので」 首を横に振って
メルク
「……物じゃ、ありませんよ」
ネーベル
「止血は完了致しました。問題ありません」 「……?」
「マスター・メルクーア。マスターがあなたとなったとしても、私は"私"でございます」
メルク
「……物じゃありません、人です」
「……今、マスターと」
ネーベル
「"ネーベル"は、その為に造られ――
メルクの言葉に頷いて 「――その為に用いられる物でございますので」
メルク
「……ネーベルさん」
ネーベル
両手を前で纏め、控える様に立ち 首を傾げて
メルク
「貴方の意思を捻じ曲げて連れ出してしまったこと、そして、貴方の居場所を奪ってしまったこと」
「これが僕の貴方に対する罪です」
「客観的に見れば、僕は窃盗犯でもあります……ですが」
「どうせ罪を被るのなら、僕は貴方に、人としてのあり方を得て欲しい。学んで欲しい」
「マスターであることで、貴方の居場所になれるなら。僕はそれで構いません」
「……もっと自由に、生きることが出来るようになってほしい」
「……自分がものであると考えるのは、悲しいことですよ」
ネーベル
「……」 風が髪を撫ぜて、絹糸の様な髪が広がっていく。
「それは、ご命令でしょうか」
メルク
「いいえ」
「……強いて言うなら、"お願い"です」
ネーベル
「"お願い"……」 反芻して、メルクの傍まで歩いて
メルク
[]
「僕が貴方に、押し付けることはもうしません……できません」
「ですから、これは、お願いです」
ネーベル
「……、」 躊躇う様に口を開いて
メルク
「……僕がマスターとして相応しくないというのなら、離れて行くのも貴方の自由ということです…ただ、あそこには、戻ってほしくはありません」
ネーベル
「マスター。お言葉ですが……それを求める事で、マスターの意に沿わぬ思いをさせる恐れがございます」
メルク
「意に沿う必要も、ないんです…」ネーベルを見つめて 「この首輪も、外しませんか」
ネーベル
「人として……」 言葉にして、首を傾げながら 首輪を示されれば、それを護る様に抱き込んで
「……承知致しました。ですが、首輪(これ)は、この身に」
メルク
「…理由を伺ってもいいですか」
ネーベル
「……」 首を横に振って 「いつか、マスターの"お願い"を、果たす事が出来た時にお伝えします」
メルク
「わかりました……」
ネーベル
頷いて、その鎖を一つ揺らして
メルク
「……ひとまず、地方を移動しようと思います」
ネーベル
「承知致しました。どちらに?」
メルク
「海を超えていくので、リアン地方になるでしょう」
「ひとまずディニス大鋼国という場所へ、それからよそ者でも生きやすい場所に移動しようと思います」
「路銀はまあ、ぎりぎり持つはずです」
「贅沢とか苦手で、たまにいい仕事があっても、ずっと貯金していましたから」
ネーベル
「……」 ロッカーラの町があった方角を一瞥して 「前マスターの影響を考えても、良い選択かと」
「……? 必要であれなら、仰ってくだされば」
あるなら
メルク
「いいえ」
「僕が連れ出したんです。貴方の財産を使うことは、少し違う気がします」
ネーベル
「財産などと呼べるものは」 首を横に振り 「身体を遣う事は、私にも」
メルク
「……いけません」悲しそうに首を横に振って
「尚更です」
ネーベル
「……マスターのしている事と、変わらない事でしょう」
メルク
「……そうですが」
「……であれば、せめて伴に、出来ることを探しましょう」
ネーベル
「それが、お望みなら――」 言いかけて、指摘されるよりも早く止まって 「承知致しました、マスター」
メルク
「メルクーアで良いです。マスター呼びが良いのならそれでも構いませんが…‥」
「僕も、ネーベルと呼びます」
ネーベル
首を傾げて 「では、メルクーアと」 静かに告げて、静かな瞳を向けて
メルク
「ありがとうございます。ネーベル」
ようやくホッとしたような笑みを浮かべて
「まずはレストリノ王国です。長い旅になるとは思いますがよろしくお願いします」
ネーベル
頷いて、口を閉ざして 笑みを浮かべたメルクには、また首を傾げながら、やはり控える様に傍に立ち
メルク
「……」守ってみせよう、人としての生き方を学んで貰えるまで 自分を物なんて言わなくなるまで
それが僕の、責任だから
ネーベル
「……」 目を瞬かせて 「リアンの地が、終着点ではないでしょう」 
メルク
「わかりません。ただ今の路銀で目指せるのはリアンが限界というだけなので」
ネーベル
何故、館を出る際に脚を止めなかったのかは、今も解らない。
ただ、マスターの言う様に人として在れるようにと思えたのならば、掴めるのだろう。どこか、確信の様な思いがあった。
「……やはり、私も共に働きましょうか」
メルク
「……」悩むように 「なるべく、頼むようなことはしたくないのですが……」
恐ろしく軽かったのもあった ずっとあの様な扱いを受けていたなら何が出来るのかもわからなかった
「…‥その時はまたお願いするかもしれません」
ネーベル
「承知致しました、メルクーア」 お任せください、と続けて
メルク
佇むように海を眺めて
船は帆を張り、ぐんぐんと進んでいく ロッカーラが小さくなっていって そして見えなくなる
メルク
場面を星の標に戻そうか
ネーベル
ええ。時間は平気?
メルク
大丈夫だよ
 
 
 
 
 
 
メルク
「──、まだまだ落ち着かないですけれど」 一口お茶を飲んで カップを置く 「こうでしたね」
ネーベル
「ええ。…………そう、貴方も彼らのその後は知らなかったのね」
 
雨脚はまだ遠のくことはなく、話し込んでいる間も入店者は居らず ゆっくりとした時間が1Fには流れていた
メルク
「ネーベルと一緒でしたから。…調べようにも調べられません」
ネーベル
「いつか再会するかもしれないけれど。……」 無表情のまま頷いて
「人の様に、……なんて。無理を言うものね」
メルク
「……どうでしょうか」 そこまで、執念深いものだろうか たかだか二人に対して
「無理であるとは思っていません」
ネーベル
「そうかしら。……口調を変えた程度で、そう思うの?」
メルク
「そう努めて下さってるだけでも、違いますよ」 にこっと笑って見せて
ネーベル
ふん、と鼻を鳴らして
「……乗せられたわね」 今度は視線だけではなく、顔ごと窓へと向けて
「あなた、後悔していない?」
メルク
「……衝動的な行いであったとは思います。後悔があるとすれば、貴方の了解を取らずに進んだこと」
「……それくらいです」
「盗んだことに・・後悔はしたくありません。それが僕の、罪だとしても」
ネーベル
「そうね。……お子様、なのよ」 目元の傷跡に触れて
メルク
「……」困ったような表情をして 
ネーベル
盗んだことを悔やまない、という言葉を聞いて メルク本人には見えないよう、薄く、極々僅かに微笑んで
「これからも、貴方の罪は共にあるわ。後悔しようとも、後悔せずとも」
メルク
「…ええ、これからもよろしくお願いします。ネーベル」
「僕が貴方を、お守りしますから」
ネーベル
「ええ。……今はまだ、頷かないわ」 守る、という言葉には否定してみせて
メルク
「……」 困ったような表情をまた作って 「…‥部屋に戻っています」
「少し、疲れました」 立ち上がって
ネーベル
立ち上がったのを見ると、此方も立ち上がって
メルク
「ネーベルはどうしますか」
ネーベル
メルクの手を取って、引いて 「共にある、と言ったばかりでしょう?」
メルク
「‥…」どきっとして 顔を赤くする 「び、びっくりします」
ネーベル
「……なら、」 すっと手を下ろして 「控えるわ」 背を向けながら、目線だけ投げかけて
そのまま階段へと向かおうとする。
メルク
「と、共にあるというのは」
「否定したわけではありません」
「…ただ、ネーベルは…」綺麗なので とは口に出せなくて
ネーベル
解っている、とでも言いたげに 手をふらふらと振ってみせて
そのまま階段を昇り始める。
メルク
その背中を追いかけて
メルク
フランシアさんという人はそのまま口に出すらしいよ。すごいね
ネーベル
ひとたらし、というのでしょう? 
メルク
少年と少女は共に1階から姿を消すのだった
メルク
こんなところかな
ネーベル
ええ、そうね。口調については……私の話だから、近々書き残しておこうかしらね。
メルク
わかりました
お付き合いありがとうございます。ネーベル
また、お会いしましょう。今度は仕事がいいですね
ネーベル
お礼なんて言わないわ、共にと連れ出したのは貴方だもの。
メルク
そうでしたね
ではまた
ネーベル
ええ、……また。
メルク
)))
ネーベル
)))
SYSTEM
メルクが退室しました。
SYSTEM
ネーベルが退室しました。
背景
BGM